内容説明
刀剣の試し斬りと鑑定を家業とし、生き肝から作った「霊薬」で富を築いた山田浅右衛門を軸に、屍でたどる江戸のアンダーワールド。人斬りの家・山田家の女性たちに関する論考を増補。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
HANA
64
花のお江戸は同時に死臭の漂う都でもあった。山田浅右衛門を中心に、江戸と死体の関連を考察した一冊。冒頭いきなり刑場での野ざらしや、水死体を集める話から始まり、刀剣の切れ味の確認のため死体を使った試し切りの細かい記述。御様御用が山田家の家業となるまでのいきさつや、人間の肝を使った薬の製造というもう別の家業。と、江戸での死体の利用法が網羅されていて、もうお腹一杯。その一方で薬の付け届けや、医者との死体の奪い合いや切腹の場への弟子の派遣等と宮仕えの哀しさが伺える記述も。死体を巡る江戸の闇の部分、面白く読めました。2017/11/01
空猫
21
江戸時代に心中が流行したという話は聞いていたがそれよりも首吊り,身投げが多発していたそう(土左衛門は海に流せば逐一届けなくて可という程Σ(゚ロ゚;))その他[ヒトキリ浅右衛門]と呼ばれていた死罪の囚人の死体を用いてお上に献上する刀剣の試し切り(様斬りと表記)と介錯の仕事を受け継いでいた山田という家を中心とした江戸の論考書。人の肝,脂肪等は万能薬(特にらい病に効く)として闇取引が明治まで続いていたそう。森鴎外や御家人斬九郎まで登場し横道にそれることも多いが内容はたっぷり。この作者は自分が楽しんでるなぁ。2016/12/18
活字スキー
18
直球タイトルそのままに、江戸の死体事情について本気出して考えてみた。自分はそれほど時代劇や日本の歴史ものが大好物という訳でもないので、「人斬りアサエモン」のことはほとんど知らなかった。どちらかと言うと序盤の、死体がゴロゴロの江戸の日常の方が興味深かったかな。心中、身投げ、処刑、試し斬り、生き肝信仰。エコ都市でもあった江戸だけに、死体もなるべく活用していたのだろうなぁ。これもまた、日本の歴史の一面に他ならない。2019/04/12
のれん
9
中々に重々しく、小説的とすら言える題材。これを学問的に追及している著者は見事。即ち死体の有効活用。糞も肥料代わりになるのだから、肝だって薬になるという生肝信仰。試し切りという武士の観念から生まれたヒトキリアサエモン。 幕末から明治初期に生きた現代人の目線に近くなってくる人の言葉も載せていて、生々しさが倍増している。 どこを切って、どこを使うか。江戸時代の社会性というのは我々とは違う倫理観で、しかし高度に回っていたのだなと感心。2019/07/22
Melody_Nelson
4
「斬」を読んでから、さらに浅右衛門について知りたくなり手に取った。試し切り(様斬)、処刑に伴う仁丹(人胆)取り、そして、弟子たちの話など、手記や古文書などから説明されている。腑分けが始まると、処刑された死体は試し切りか解剖かで奪い合い。なるほど。本書の文体はややカジュアルなきらいがあり、読みにくかった(好みの問題だが)。その点では「付論」の方が良かった。2021/11/30