内容説明
養子に入った武家の妻にへきえきしていた男が、初めて連れていかれた谷中の茶屋の女に魅せられ、武士の身分を捨ててしまう表題作。自堕落に暮らしていた息子が、濡れ衣を負って処刑された父の敵を討とうと決心した途端に人柄が変わってしまう「夢中男」。そのほか「尊徳雲がくれ」「へそ五郎騒動」「舞台うらの男」「かたきうち」「伊勢屋の黒助」など、全11編を収める傑作短編集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
72
「尊徳雲がくれ」は二宮尊徳の知られざる2年間を膨らませた作品。閨房描写は『雲切仁左衛門』を思い出させるねっとり感を醸す。同時に「勤勉・勤労」の象徴とさせる二宮尊徳を人生への野心が再び、燃え盛る一人の男として魅せている。それにしても小賢しいおろくに騙されたとしてもその演技力を糧にして邪魔者の排除と援助を叶えるとは天晴れ。表題作はむじ久こと久兵衛さんが源太郎の事を気に入って掛けてくれた言葉が女性の幸せを願う優しさが溢れていて好きです。平蔵シリーズの骨子ともなった「看板」は平蔵の言葉で目を開かされるのも巧み。2020/08/14
優希
51
渋さを感じさせる短編集でした。武家を中心とした江戸時代の風景が浮かび上がるようです。余韻を残す終わり方が印象的です。2023/04/06
Aya Murakami
47
スカパーにて映像化作品が放送されているというので図書館で借りてきました。 タイトルの谷中・首ふり坂に出てくる奥さん。あれは今でいうDVですね。たぶん苦しむ主人公を痛めつけて喜んでいるのでしょう。たまりかねて首ふり坂という地名の場所に息抜きに遊びに行く主人公なのですが、そこの主なお客さんは坊主だとか…?そういや谷中ってお寺が多いとききましたからね…。2018/07/26
けやき
31
「尊徳雲がくれ」「恥」「へそ五郎騒動」「舞台うらの男」「かたきうち」「看板」「谷中・首ふり坂」「夢中男」「毒」「伊勢屋の黒助」「内藤新宿」の11編の短編集。旅のお供に読みました。「看板」がいいなぁ。職業人としての譲れないものについての話かな。「尊徳雲がくれ」も人には色んな側面もあるのでは?という話でよかった。「伊勢屋の黒助」みたいな話も面白いね。2016/05/02
ぶんぶん
23
【図書館】何気なく借りて来た池波氏の短編集。 十一編入っているが全編、小気味が良い物語が詰まっている。 昭和三十五年から四十五年までに発表された作品が編まれている。 各編とも池波節が堂々と描かれていて、流石は文章力の池波氏だと唸わせる作品ばかりである。 中でも「看板」という作品は盗賊・夜兎の角右衛門の盗めの三ヶ条が早くも描かれている。 これに鬼の平蔵こと長谷川平蔵が連載前に登場している事が特筆に値する。 平蔵ファンは読んでおいて損は無い作品かと・・・2020/07/16