内容説明
近代心理学の起源は、1879年ヴィルヘルム・ヴントによる心理学実験室開設の時点とされる。それは「心を対象とする科学」の宣言であった。その後19世紀末から20世紀を通して、心理学はその方法論や認識論に関するさまざまな「革命」を生み出しながら領域を拡大していく。19世紀後半の「始まり」を用意した思想的背景は何だったのか。また古代以来の西洋哲学史のなかで「心の問題」はどのように扱われてきたのか。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
みかん。
8
文体や論旨は平明である。哲学史を押さえたのがやはり的確な判断か。19世紀ドイツの文学にはたとえば18世紀博物学の影響で隆盛した古生物学や自然誌の影響が見られる、といった話に納得。また人間が思い付くアイデアの数々におどろきました。2023/01/30
みかん。
3
認識の対象となるもののうち自然学的定義に当てはまらないものは、自然学者以外にゆだねるべき問題である。2023/11/10
ロラン
2
心理学史の関連書籍は少なく、大規模書店でも入門的な通史の概説書が2、3冊見つかればよい方だ。そんなお寒い状況の中、このような読みごたえのある著作が手軽に購入できるのだから、講談社学術文庫はありがたい。高橋澪子先生の著作は初めて読んだが、心理学と哲学の両方に造詣が深いとみた。とはいえ、専門は心理学なので、哲学の専門的な議論に深入りせず、あくまで心理学史としての記述に徹しており、そのバランスが絶妙である。読むのに哲学の知識はさほど必要ないが、心理学史の通史をある程度知らなければ、読み通すのは厳しいだろう。2017/12/21
YASU
0
内なる自律的な心=自己意識の内観的分析という心理学の常識は、近代的心身二元論に由来する。それ以前には人体内の科学的物理的諸力の他に、これらとは異なる統一的な生命力が働いているという考え方が支配的だったという。心的経験も外的(感覚的)経験もともに“公共”的で、「内観」だけを特別視しなくてもよいとすれば、心理科学の枠は大きく拡大する。行動科学の未来もここに位置づく。つまりは科学の対象としての心とは、そもそも何なのかという哲学問題に行きつくのであって、心は外部にこそある、という命題につながっていく。2024/12/06