内容説明
英語・英文学教師から国民的人気作家へと転身した場所、東京市本郷区千駄木町。代表作『吾輩は猫である』や『坊っちゃん』もここで書かれた。多くの弟子にも恵まれ、嫌いな大学も辞めた、博士号も辞退した。それなのに、千駄木はイヤだ、豚臭い、そうか、それなら慈悲のために永住してやる……と。書簡、作品、明治の千駄木から描き出す素顔の漱石とは。文庫のために「千駄木以後の漱石」を加筆。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Willie the Wildcat
63
街を基軸に、氏と作品を振り返る。嫌いだから住む千駄木?!いやいや、犬・豚・無作法・悪戯・教鞭など、言葉とは裏腹に日々を楽しむ氏の姿を随所に垣間見る。しかも狸伝説?!鴎外との対比では、氏/鴎外/子規、三つ巴の感のある相互”批評”の件。但し、鴎外主宰「めさまし草」に氏が句を投稿したり、子規句会に両者が招かれるなど、敬意をもった健全なライバル関係という感。何度目にしても笑うのは、三重吉の長文の手紙の”泥棒顛末”。(笑)なお、数々の地図の挿絵に時代の温かみが溢れ、巻末の『千駄木縁の著名人リスト』も一見の価値あり。2018/11/15
はれひめ
34
谷根千と言えば森まゆみさん。夏目漱石が嫌々英語教師をしながら「猫」等を執筆していた千駄木での四年間の暮らしを紐解く。漱石の弟子へと家族への態度の違い等面白いエピソード満載。著者が漱石をバッサバッサと斬る様は小気味良い。「月が綺麗ですね」団子坂を散歩しながら囁いてみたくなる。2016/08/06
tsu55
15
谷根千は好きなので、休日などカメラ片手に散策したりします。なので、この本に出てくる地名のなかにも「あゝあそこか」とわかるものがあり、なんとなく親しみを感じました。もっとも、漱石の時代と現代とでは、景色がまったくちがうのですけれどね。2017/04/05
もだんたいむす
6
作中で、作者が「なんで漱石は家族に優しくできないの?」と何度もボヤいているのが大変愉快でした。★★★★★2017/03/11
Gen Kato
5
「千駄木」という地縁にこだわった、森まゆみ氏ならではの漱石評伝。鏡子夫人への視線のやさしさも森さんらしくて嬉しい。(悪妻説にあっさり加担して悪口を書き連ねる類の文章にはいささか辟易していますから)子供たちへの暴力だけは受け入れがたいけど、やはり漱石は自分にとって特別に魅力的な作家。またいろいろ読み返したくなりました。2016/12/16