内容説明
昭和二十五年七月二日未明、鹿苑寺金閣は焼亡した。放火犯人、同寺徒弟・林養賢、二十一歳。はたして狂気のなせる業か、絢爛の美に殉じたのか? 生来の吃音、母親との確執、父親ゆずりの結核、そして拝金主義に徹する金閣への絶望……。六年の後、身も心もぼろぼろになって死んでいった若い僧の生を見つめ、足と心で探りあてた痛切な魂の叫びを克明に刻む長編小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アルピニア
55
昭和25年、鹿苑寺の徒弟林養賢による放火で金閣が焼失した。なぜ林は金閣を焼いたのか。水上氏は、林の生まれた村を何度も訪ね、調書を読み、関係者に話を聞いた。この作品は、事件発生から約30年後に発表されている。小説というよりは、ルポルタージュに近い。氏は「本当のことはいまもわからない」「(考えがまとまるのに)20年かかった」とあとがきで述べつつも、寺社の金銭、権力との結びつきに対する憤懣が林の動機の核となったと推測している。読後、これは(一部で言われているような)単なるアプレゲール犯罪ではないと感じた。2022/02/21
kawa
38
戦後まもなく起こった金閣寺放火事件の犯人を追った力作ノンフィクション。犯人に多少の縁あった著者による当時の禅宗寺院の様子や、終戦前後の京都や丹後地方の描写が興味深い。その真相は本書にしても依然として謎なのだが、犯人の養賢は私の身近に今居るかもしれないし、私が養賢なのかも知れないのが怖い。2021/12/08
活字スキー
31
【私は金閣寺を見ていて僧になることがいやになって了った。あんなものがなくなれば、師匠もあたりまえの禅僧にもどれるだろう。皆の目をさますためには、自分さえ死ねばいい。死んで、金閣を焼いて、あの男は大きなことをやったな、といわれたい】 かの『金閣寺』より二十余年を経た後に、金閣放火犯・林養賢と同郷にして修行歴もあり、事件を起こす前に本人と会ったこともあるという水上勉がまさしく「地を這うようにして」書き上げた渾身の実録体小説。若干の創作も含まれるが、架空の溝口ではなく、実在した林の物語として圧倒的なリアリティ。2019/12/11
そうたそ
30
★★★☆☆ 金閣寺放火事件について思うに、自然と想起されるのはこの作品と三島由紀夫「金閣寺」ではないかと思う。後者は三島由紀夫の美意識が最大限に表現された文学的作品であるのに対し、こちらはどちらかといえばノンフィクションにも近い記録文学のような作品になっている。そのため事件そのものについて興味があるなら、こちらを手に取るのが適しているかと思う。個人的には小説かと思って読んだのでやや期待していたものとは違ったが、綿密な取材の元に書かれた内容は非常に重厚なものである。思ったより犯人が普通の人物だった気がする。2014/07/31
michel
25
★4.2。ノンフィクションの逸作。林養賢はなぜ金閣を焼いたのか。観光寺院で彼の目に写った金閣は美しかったのか、醜かったのか。なんとまあ、三島金閣との相違。今、彼には安らかに尺八を吹いていて欲しい。2019/07/16
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