内容説明
時代の精神を独自の美へと昇華させる構想力.丹下健三が創り出す建築空間は,高度成長の道をひた走る戦後日本の象徴であった.「建築の化身」.直弟子・磯崎新をしてそう言わしめた人物の足跡を,多くの逸材を輩出した「丹下シューレ」の活動とともにたどる.従来批判されてきたバブル期の活動にひそむ先見と洞察に光をあてる.
目次
目 次
序 残酷な建築のテーゼ
第1章 焼野ケ原からの復興
1 平和を生産する工場──広島平和記念公園
2 首都の人口過密と経済発展の止揚──東京都庁舎
3 地方自治と民主主義のプロトタイプ──香川県庁舎
第2章 高度成長のシンボルをつくる──東京オリンピックと大阪万博
1 情報化社会に向けて
2 象徴の創造──国立屋内総合競技場
3 成長の先にある未来像──大阪万博お祭り広場
第3章 バブルと超高層ビル
1 中東諸国へ
2 アフリカへ
3 シンガポール、ふたたび東京へ
第4章 丹下とどう対峙するか──丹下シューレのたどった道
1 国土・都市・建築──浅田孝と下河辺淳
2 部分から全体への回路──大谷幸夫と槇文彦
3 父殺しとポストモダン──磯崎新と黒川紀章
4 言空一致による新しい建築の創造──神谷宏治と谷口吉生
おわりに 丹下の投げかけたもの──戦後一〇〇年を視野に入れた建築をどう構想するか
おもな引用文献
参考文献
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ころこ
38
ザ・戦後みたいなひとは各分野に必ずいますが、本書も戦後日本の歩みと丹下健三を重ねています。しかし、そういう捉え方が強すぎると、固有名が消える懸念があります。本書は1、2、3章対4章という構成で、前者では、丹下は公共建築をつくっただけでなく、都市をつくった。さらに、日本の都市だけでなく、第三世界の都市を人工的につくった、開発と成長の時代に生きた建築家だと要約できます。後者では、丹下の周囲にいた才能ある人物との対比によって逆照射することで、固有名を際立たせます。カリスマ性を安易に求めない、考えられた構成です。2019/09/07
えも
21
戦後から2015年まで70年間の日本近代建築史を、丹下健三とその弟子たち(丹下シューレ)を焦点に据えて著述している。■そりゃそうだろうなあ。そのスパンで軸に据えるとしたら「建築の化身」と称されたこの人しかいないよなあ、と建築家や建築史をよく知らない私でも思います。■そして読み進めるうちに、先駆性や構想力、科学的な分析と国土計画まで視野に入れた発想などまさに恐るべし、やはり「化身」だったのだと納得。なんか今西錦司を思い出したりして…。2016/06/19
C-biscuit
17
図書館で借りる。建築に関わる業界にいるが、デザインについては疎いので、たまにはこういうのを読んでおきたい。この本は丹下健三が設計した建物とその時代の背景や考え方を中心に説明されている。後半はその丹下健三と門下生である丹下シューレの人々との関わりが述べられている。戦後の復興から都市デザインをやっているようだが、焼け野原でさえ古い勢力との関係で開発できずに、実行されない都市計画がたくさんあったようである。先の東京オリンピックを知らないので、駒沢総合運動場のことがわからなかったが、この本でようやく理解できた。2016/06/14
浅香山三郎
14
名前だけは知つてゐたものの、詳しい業績は知らなかつた丹下健三の評伝。「戦後日本の構想者」といふ副題の通り、ケンチク作品だけぢやなく都市計画なり、様々なプランを積極的に打ち出した姿は、「第一世代の民主化」(松村秀一『ひらかれる建築』)の使命を背負つて生きたと言へ、ル・コルビュジエの影響と類似(越後島研一『ル・コルビュジエを見る』)もよく分かる。良くも悪くも丹下の仕事が政治や行政と繋がりが強固で、とくに開発独裁の国での都市計画は、大胆だが実験的に過ぎ、施主を喜ばせる以上の結果に結実したのか考へさせられる。2017/02/21
やまやま
13
個人的にお目にかかったことはなかったが、師匠からは「丹下先生はねえ・・・」とよくお話があった。狭義の建築にとどまらず、都市をどのようにとらえていくか、工学的な視点を1940年代に確立していたことは巨人だったのであろう。頭の回転が速い天才で、判断が的確と自信がある。浅田孝や大谷幸夫といった先生は、町の全体像のとらえ方が丹下先生とは違って「生活感を重視」されたのであろう。私は、住むとすれば丹下設計や安藤設計のような逞しい空間で「ない」ほうが好みです。ただ、建築モニュメントとしては丹下設計は不抜なのかも。2019/10/08