内容説明
ホメロスが謳うオデュッセウスの漂流譚はでっちあげだ! と糾弾する妻ペネロペ。不器用で世渡りが下手な夫を嘆くダンテの妻。サロメの乳母、キリストの弟、聖フランチェスコの母、ブルータスの師、カリグラ帝の馬……歴史上の有名人の身近にいた無名の人々が、通説とはまったく違った視点から語る英雄・偉人たちの裏側。「ローマ人の物語」の作者が想像力豊かに描く短編小説集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
98
塩野さんがものにした作品から派生した物語のようです。若干コミック的な要素を含みながらの物語で塩野さんお得意の歴史に忠実にしているのではなく少し斜めあるいは裏側から見た物語で楽しめました。10の短編と最後に二つのおしゃべり会のような感じのものが付録でついています。こういう軽いものも好きです。2015/08/09
優希
75
通説とは異なる視点で語られるのが面白かったです。歴史上の有名人にいた無名の人々が見つめるローマは、こんな見方もあるのかと目からウロコでした。どの話も1認証で語り手本人から見た歴史なのでとても興味深いです。通説とは異なる視点で歴史を見るのも楽しいものですね。2019/11/23
molysk
66
短編「サロメの乳母の話」。古代ユダヤの王女サロメは、聖書では母に盲従する無知で従順な少女と描かれ、ワイルドは幻惑的で小悪魔的な妖女とした。塩野七生はどう描くか。洗礼者ヨハネは、王妃ヘロディアデを道徳的に糾弾するが、ユダヤの民には預言者として敬われる、王ヘロデにとって悩ましい存在。処刑もできず、解放もできず、支配者ローマからヘロデの統治者としての才を疑われる元凶だった。不断の義父に代わり、サロメは踊りの褒美として、ヨハネの首を望んだとする。賢明で理知的、自立した存在として描く塩野の解釈は、現代にふさわしい。2021/09/08
ヴェネツィア
62
古代史上、著名な10人を取り上げ、それらの身近にいた人が1人称の回想形式で語るという趣向。特に表題作「サロメの乳母の話」は、芥川の『地獄変』の語りの手法を思わせる。篇中では暖かい情愛にあふれた「聖フランチェスコの母」が一番好きだ。塩野七生さんといえば大長編というイメージだが、こんな風な短篇も実に鮮やか。モロー画の表紙もいい。2012/05/30
なる
52
大御所だけど未読の作家を読んでみようシリーズその5は塩野七生。ギリシャ・ローマ世界を中心とした作家という印象そのままに、本書は歴史上の人物のそばにいた「記録に残らない人々」からの10の視点で書いた面白い試み。好きなのはサロメの乳母、ダンテの妻、ユダの母親、キリストの弟、聖フランチェスコの母あたり。従来のイメージを覆す人物像として描かれており読んでいて楽しめる。ギリシャ関係は人物名が複雑でやや難しいが、できる限り理解できるように心を砕いているのがわかる。巻末の「饗宴・地獄篇」には作者のユニークさが見える。2021/05/22