内容説明
子どもをつくることを躊躇(ためら)う夫婦のわだかまりが解ける瞬間、処女のまま産み育てた息子が復讐しに来ると思い込む母親、あるはずのない異性器を持ちたいと切望する男女の交わり、死んだ父親に生きているふりをさせる少年少女たち……飛翔する想像力によって先入観を超え、固有の物語を紡ぎ出した傑作短篇集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
秋良
6
ところどころ現実に幻が顔を出して、その雰囲気は好みなんだけど舞台が日本では合わない気がする。だからコロンビア辺りがモデルの「チノ」がいちばん良かった。あとボルヘスが出てくるやつ。2018/06/12
君吉
1
著者独特の背中からすーっとなってくる「怖さ」は全編通じて感じられて、面白かった。糞真面目なくらいの社会派の性質と詩的な叙情性を絶妙に併せ持つ作家だと思う。個人的には『ててなし子クラブ』と『エア』が好き。 2010/06/30
わゆ
1
表題作は、勝手に決めつけて、相手を攻撃して、返す刀で自分も傷付ける、そんな女性の「あなたは私のことなんか理解しようともしないのよね」という思いがぶつけられて、暗い気分になった。2010/03/15
hayate
0
冒頭の紙女がほんとうにいろめかしくて凄い。いわゆる読むことの快楽と書くことの快楽というものを、性的なことを書くことによって表現する文学の手法を逆転させて、幻想的な描写の中に落としこんでいて、こういった短編小説の見本として人にすすめてまわりたいくらいの代物。文庫版の装丁よりは単行本版の方が好み。だって怖いんだもん 笑 2014/08/07
あかふく
0
何か考えを抱くことをconcepioと表現すれば、それは正に「孕む」ことに違いないわけであって、どうやら未だに英語の慣用句としてget a babyという言葉があるらしい。それを極めて肉体的なレベルで話すと、何かを食べて身体を作るということになると思いますが、それゆえ「味蕾の記憶」が一番面白かったです。全体的にはいわゆる魔術的リアリズムのような作品が多く、性への言及が非常に多いという味です。「ててなし子クラブ」、「ペーパームーン」、「われら猫の子」、「味蕾の記憶」、「チノ」、「砂の老人」、「紙女」など。2012/09/16