内容説明
芸術家の苦悩を描いた著者の処女長編小説。
関東大震災と第二次世界大戦という二つの歴史的大事件に挟まれた16年間――画家・桂が片時も忘れえなかった昔の恋人・三枝夫人との再会と、すれ違った愛の行方を追い求め描いた作品。
世界が激しく揺れ動いた時代、日本という風土に生まれ育った芸術家の思索、苦悩、そして愛の悲劇を通して人生の深淵に迫った力作である。完成までに十年の歳月を費やした福永武彦の文学的出発点ともいえる。
解説は芥川賞作家であり、福永武彦の長男でもある池澤夏樹氏。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
冬見
8
冒頭の文章が素晴らしく、引き込まれた。第二章の構成もおもしろい。異なる時間軸を一方は時間経過のままに、一方は遡行して交互に語られる。このボリュームの作品なら中弛みが懸念される中盤をこまめに引きを作ることで巧みに進させ、登場人物の思考・思想の流れと成立を細やかに描写している。第二章の厚みが第一章、第三章と響き合い物語に厚みが生まれる。芸術とは何か。愛とは何か。我々が行きつく先に何があるのか。圧巻だった。2024/04/07
アレカヤシ
3
人生は愛し愛される事だ、それがなければ空っぽだという。桂は空っぽ、愛し愛されるには歳を取り過ぎ、全く疲れている。歳を取って情熱もなくなり、愛もない人生は死んでいるという。桂は愛を諦め、芸術に生きようとしたが、それにも挫折した。でも少なくとも一度は生きようとした。僕は疲れる程何かに打ち込んだ事もないのに初めから空っぽだ。感情も理性も精一杯働かせた事がない。一度も生きた事がない、初めから死んだ人生。僕は多分、人生の本当を知りたくて小説を読んでいると思う。本を読んでてもいつのまにか自分の事ばかり考えている。2017/10/07
みつ
1
三部構成の第1部と第3部は1939年8月の数日、第2部は1923年8月の1日のみが海を舞台に描かれ、後者にはさらに十数年を順次遡る断片が11回挿入される。凝った構成であるが、読み進めるのに支障はない。断片を除いて大きなストーリーの起伏はなく、愛と青春、芸術への想いが内省的に語られる。ただ、読者は、いずれの年も直後の9月1日にはカタストロフ(関東大震災と第二次世界大戦の勃発)が彼らを待ち受けていることを知っており、そのことが、この清冽な小説に影を落としている。kindle でおそらく30数年ぶりの再読。2018/08/23
ロックスターKJ
0
評価:★★★★☆ 4点 2016/10/19
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