内容説明
彼の指が女の喉元にくいこみ、やがて女の体は動かなくなった……証券会社に勤めるマーシャルは最愛の女性と婚約し、今日が結婚式だった。しかし、たった一度おかした過ちから恐喝を受け、愛する女性と結ばれるため、結婚式の当日に恐喝者を殺してしまったのだ。殺人の事実を隠蔽し、式を済ませた彼は、ニューヨークを離れ追われる者の苦痛と焦燥の淵へと向かっていく─―ウールリッチ的叙情をサスペンスにあふれる佳品。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
116
【CNC-犯罪小説クラブ】結婚式の当日に殺人を犯してしまった男の苦しみを、叙情的な筆で描いた犯罪小説。ひたすら暗くて、救いがないのだが、情感に満ちた文体の妙で読ませる。まるでモノクロの映画を見るような20世紀初頭のニューヨークの描写が美しい。結末はショッキングだが、作者は人間の孤独を浮き彫りにしたかったのではないかと思う。2016/05/21
elf51@禅-NEKOMETAL
7
コーネル・ウールリッチ得意のサスペンス。結婚式当日に訪ねてきた浮気相手を殺してしまい,追われているという疑心暗鬼,恐怖を上手く書いてある。あまりに被害妄想的で笑えてきたりするくらいだが,そこはウールリッチの美しい文体で押さえ込まれる。 追ってきたと思い込んだ相手を秘密を守るためにさらに殺しに行くのだが,その心理状態を状景に投じて実に情緒溢れる美文に落とし込んでいる。2021/03/15
Tetchy
6
実にウールリッチらしい佳作。本書で書かれる恐怖は私にも判る。人は何がしか社会の中で匿名性を求める。それで安心を得ているのだが、一度普通人のレールを外れると実はもうかつてのようには戻れなくなる。最後のエピローグはウールリッチ特有の皮肉だ。しかし、この物語はウールリッチでなくても誰かが紡いだ話である。しかし題名は秀逸。そう、誰もが何がしかの“恐怖”を抱き、生きているのだ。それに打ち勝つ者もいれば打ちひしがれる者もいる。それが人生なのだ。2009/08/23
akiko
5
浮気をしてお金を強請る女を殺してしまった男。妻にバレないよう、警察を恐れて過ごす毎日は恐怖そのもの。一歩間違えばギャグになりそうな場面も、古めかしい雰囲気で語られると、こういうお話になるのですね!ラストはなんとなく予想できたけど、まさか覚えていないとは!2019/06/18
Y.Yokota
2
「...もしそれが青春の夢を奪ったら、その代りにお金を与えるかもしれないわ。もしお金を奪ったら、その代りに愛情を与えるかもしれないわ。たとえ愛情を奪っても、少なくともその人に住みつく場所を——見馴れた景色や、なじみのある顔がまわりにいて、心の痛手に耐えられるようにしてくれる場所を——与えてくれるでしょうよ。...」この小説は、物質的と言うよりは、精神的だと言えると思う。ミステリを精神的に構築すると、こうなるのだなとも思う。後半は呼吸が難しくなります。2014/12/14