内容説明
個人より集団、論理より情緒、現実より想像――日本人には今も昔も固有のナルシシズムが息づいている。自分のことより他人の評価、集団との一体感こそが大切で、しばしばそれは法や論理を跳び越えてしまうのだ。うつ病の急増、ブラック企業や原発事故など、昨今の社会問題すべてに通底する、いわば民族的宿痾としての「日本的ナルシシズム」の構造を明らかにする。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
どんぐり
72
会社の一員として消耗するまで働き、ついに体調を崩してしまう人々がいる。何が彼らをしてそうさせるのか、という問いから始まる日本的ナルシズム論。精神科医が唱える日本的ナルシズムの病理は、現実よりも「自分にとって自分がどう感じられるか」「自分が他人からどう見られるか」というイメージを重要視する「想像上の一体感の美化と理想化の維持、そのための現実と他者の排除」である。これを精神分析家のいくつかの考え方を上げながら解説し、現代の社会問題であるブラック企業や新型うつ、原発まで議論を展開している。タテマエとホンネ、甘え2016/11/20
おさむ
32
福島県南相馬市の精神科医による日本人論。新型うつは日本人に多い、メランコリー親和型気質がディスミチア親和型に変わってきたものとする説が興味深い。前者は縦型社会への同一化が強かった。後者はそうでもないが、集団への一体感は漠然と残っている。世代が下がるほど、縦社会の論理は信用を失い、個人を集団に優越させるナルシシズムの病理が深まっているという。また、一体感を感じる対象が国家になる傾向も増えていて、日本及び日本人を過度に美化したり、逆に劣ったものと考えたりする極端な偏りも見られるという。かなり病んでますな‥‥。2020/08/16
金城 雅大(きんじょう まさひろ)
26
暇つぶしのために電子書籍で買ったら、思いの外示唆に富む内容でかなり得した気分。これはちょっと人に薦めたいなぁ。/「出る杭は打たれる」心理現象/多くの自己啓発書に書かれている「欲しいものは、まず自分から人に与えなさい。」の効用の真の意味/日本からブラック企業がなくならない理由/twitter上で平行線を辿る議論が巻き起こる心理/2019/02/28
空猫
13
日本的ナルシシズムとはガラパゴス的な曖昧なルールの中、周りと同じでいようとする、加えてタテ社会のこと。これが原因で起こることとして、うつ病、過労死、日本軍からの官僚体質などが挙げられている。精神科医から見た現代日本社会論。このままじゃ国際社会で通用しないし、現に今の日本でも歪みが出ているではないか。日本人に一神教が普及しない、真の理解は出来ない理由にも通じていた。主張は興味深いが、同じことを違う言葉で何度も繰り返すので読むのに疲れた。最終章でまとめてあるのでそこだけでも。2016/09/01
ハイちん
12
普段から生きづらい生きづらいと思っているのだが、そう感じる理由が書いてあるように思った。日本では自分を犠牲にして集団のために尽くす人(メランコリー親和型)が尊重される。集団にとって役立たずの人間、自分勝手で和を乱す人間(「タテ社会の論理」を否定するやつ「想像上の一体感」の破壊者)は悪だから、攻撃してもよい。悪意を帯びた言動を浴びせたり仲間外れにしても構わない! でも、こういう理屈って日本に特有なのかも。知識として自覚することで心の防御力が上がった。「われわれ」のなかに「わたし」を埋没させない勇気が湧いた。2016/12/31