内容説明
鎖国体制完成を目前にした江戸初期の長崎に、通辞として赴いた上田与志。役人としての確実な立身を望んでいたはずの彼は、いつしか、鎖国派と海外交易派の政争の渦に巻きこまれていく。混血の美女コルネリアの愛を支えに、閉塞していく状況を憂い、時代の権力に挑戦した、その悲劇の生涯を描く。“物語”のもつ魅力を充分に取り入れ、史実をふまえて構築された壮大な歴史ロマン。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
294
物語の舞台は、3代将軍家光の時代の長崎。26聖人殉教の直後に幕を開ける。禁教令が出されていたが、まだまだキリシタンの弾圧が続いていた頃だ。貿易船もポルトガル、オランダ、明の船が来航し、また日本の御朱印船もアジアに出帆していた。そこから、鎖国がもはや決定的なものとなるまでを描くのだが、読んでいる途中は物語がどこに向かうのか予想できないのだ。そして、とうとうコーダの2ページを迎える。そして、ここまでの物語は、すべてこの最後の2ページのためにあったことを、読者は自らの流れ落ちる涙と共に気付かされるのである。2016/04/06
Gotoran
49
冒頭、頁を捲ると“福永武彦氏に”と記された本書。時は秀忠、家光の江戸初期、鎖国体制確立過渡期の頃、長崎を舞台に南蛮貿易を取巻く血生臭い政争、巻込まれていく長崎奉行の通辞(上田与志)と混血女性(コルネリア)、南蛮貿易の興亡と多彩な登場人物達、史実と創作を綯交ぜに、主役を核にして複雑な人間模様(南蛮貿易推進派と鎖国派)と悲恋が描かれる。主役二人の悲恋と共に当時の政治経済情勢が手に取るように描かれる、細部に至る精緻な描写に著者の見事な筆力に感嘆した。2015/02/10
松本直哉
17
二重国籍の者に党首になる資格はないなどという暴言が大手をふってまかり通る今の日本は、本書のなかの徳川家光の、父母どちらかが外国人なら国外追放という時代からほとんど進歩していないのかもしれない。雑種混血の民族であり、純粋な日本人などというのが幻想でしかないのに。国境も心も鎖した国で、青い目のコルネリアと与志をへだてる海の越えがたい非情。死を賭した絶望的な泳ぎと、日本語ではない言葉でしか伝わらぬ思い。錯雑する諸国の思惑、交易か鎖国かをめぐる幕閣内の対立、禁教令下の陰鬱な世情のなかで歴史の渦に巻き込まれる二人2016/09/26
風に吹かれて
14
鎖国に入ろうとしている時期の江戸時代、通辞として長崎に赴任した上田。海外交易派と鎖国派の政治的抗争に巻き込まれる中、ポルトガル人との混血の女性コルネリアと出会う。時代の変わり目の中、奉行や商人たちの権謀術数や鎖国へ向かうことによる庶民の悲劇。多くの血が流れ多くの涙が流れた。象徴する上田とコルネリアの雅歌に胸を打たれる歴史ロマン。2018/06/06
人間
11
時代背景はそうであっても、キリシタンの信仰に関わる物語ではない。ポルトガル、オランダとの貿易に関し、幕府、長崎奉行所や役人、商人達のそれぞれの立場で対立や交渉、裏工作をしていく。冒頭でわかっているとは言え結末は悲しかった。親友の小曽根は知っていたからこそ、上田に結婚を急がせたのか。。。ちなみに舞台の殆どは長崎であり、天草ではない。2018/07/06