内容説明
「樹も草も鳥も風も空も、みんなみんな、わたしのものではない。どこを見廻してもわたしの肌にぴったり寄りそってくるものはない」……。異国に嫁いで二十年、日本の戦争花嫁〈ベティさん〉の切々たる望郷の念を描く芥川賞受賞の表題作をはじめ、『魔法』『わがままな幽霊』など、華麗なイメージと静謐なタッチで、独自の文学空間を築く話題の女流作家の傑作短編、ほかに『魔法』『雨の椅子』『老人の鴨』の3編を収録する。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
173
第68回(1972年)芥川賞。 豪州で暮らす 日本人妻 ベティさんの物語で ある。当時の海外の日本人の生活が 描かれる。やや単調なのが残念だが、 ベティさんの孤独で 淋しい心象風景が 素直に描かれた作品だった。2017/09/21
kaizen@名古屋de朝活読書会
108
【芥川賞】柚子(ゆうこ)がエリザベスという名前になって愛称ベティさん。オーストラリアの軍人の妻。戦争花嫁。なんとなくうだうだする。息子がいろいろ声をかけるのは母親冥利ににつきるのかも。同時受賞が「れくいえむ」で戦争の話題で対称的だったのがよかったのかも。2014/02/19
ヴェネツィア
106
1972年下半期芥川賞受賞作。海外で暮らす日本人妻の物語。本篇はオーストラリアの、どうやらダーウィンが舞台のようだ。この小説のもっとも特徴的な点は、語り手を1人称にしないで、ベティさんと3人称に突き放して書いていること。このことは、小説の後段でアイデンティティ・クライシスが描かれ、全体の主題ともなっているので、十分に意識化された方法だったのだろう。渡豪してから20数年を経てなお、主人公はベティさんになりきれずに、かつて喪失した柚子(本名)としての自分を追い求める。乾燥した広大な僻遠の地での孤独は深い。2014/02/19
大粒まろん
18
んー、読み易いですが、なんだかザラついた文体でした。国際結婚を戦争花嫁と言っていたような時代の話。国際結婚の物語が賞を獲るのは良いのですが、どれもお話が、寂寥感と理解されない事への孤独感で。アイデンティティは難しい。同じであること(画一的)と、違っていたいと思う事(個性的)を、人はこの矛盾をいつもせめぎ合って抱えているから。なんか違うと思えばキリがないし、全く同じになれるかというと、そうでは無いしね。その隙間を文学は描く事が多いとは思うけど、こんなに寂しい話ばかりに賞をあげなくてもいいような気もしました。2023/09/01
あかふく
6
また海外のアイデンティティ不安のお話ですか? 芥川賞さん? ベティさんとは柚子という女性の洗礼名であって、オーストラリア人の夫マイクと結婚したときに洗礼を受けたのだった。オーストラリアで住むときに日本人と関わりながら、自分の疎外されている感じに悩む。丁寧だけど。2013/03/20