内容説明
怪異とは、それぞれの時代の特徴を、もっとも生々しく切り取る切り口のひとつなのである。それぞれの時代の社会が直面し、そして説明しきれず、恐れねばならなかった問題は、いったいなんであったのか。その問題と関連づけながら、政権中枢に向かって……どのような思考や実践がおこなわれたのか。……怪異を切り口にすることで、政治・経済・文化にまたがる人びとの思考を、われわれは動態的にみてゆくことができるのである。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
HANA
60
木像は破裂し、天狗は都の空を飛び、管領は魔法を使う。室町時代後期の怪異を、社会との関係性の中で論じた一冊。怪異を迷信ではなく、社会の論理とした上で論じる姿勢が何とも興味深い。特に京都という首都を巡って限られたパイを巡る上で怪異が使われていた、というのは目から鱗が落ちる思い。道理で都市的な神経症じみた印象を受けるものも多いわけである。木像の破裂を巡る駆け引きとその終焉や、細川政元のイメージの変遷もとりわけ興味深い。近世の到来とともに姿を消した室町の怪異、あまり知る事のなかったそれを面白く読むことが出来た。2016/07/01
りー
30
当時の日本人は怪異をただただ不思議なものとして受け入れていたわけではなく、意図を持って発信・収束していたのだという視点は、今後怪異譚を読む際に新たな視点を提供してくれるのではないか。その現象が起きることによって誰が得をするのかというのはこと怪談話なんかを読む時に僕に欠けてしまっていた視点なので勉強になった。後半は室町の歴史の話がほとんどだったので眠くなった。2016/12/17
Toska
25
「怪異とは権力の問題である、というと、唐突に聞こえるかもしれない。しかし、人を動かす力を、広い意味で「権力」と呼ぶのならば、まぎれもなく、歴史上に起きた怪異、つまり「人びとが何を恐れるか」という問題は、権力の問題なのである」(10頁)。この導入部から惹き込まれる。「怪異」を民俗学や文化史ではなく政治史・社会史の枠組みで捉え返す大胆な試み。法制史を専門とする著者だからこその発想であろうか。2025/07/17
糸くず
8
史料に残された「怪異」の記録から、中世、特に室町時代のソーシャルネットワークの発達と暴走、そして破綻までを見事に描き出した刺激的な一冊。初めは寺社と政権との間で収拾されていた凶事の前触れとしての怪異が、社会が怪異の知識を蓄えたために噂だけが拡散されるようになり、さらには、怪異の社会に対する影響力を知った寺社が信仰や利益を得るために、怪異を社会に向けて宣伝するようになる。こうした怪異をめぐる思考のうねりがとにかく面白い。そして、この本が示す怪異の力関係は、現代社会に溢れる情報の力関係にも繋がっている。2020/01/07
maqiso
7
室町時代は権力と富が京都に集中したが体制は曖昧であり、公家・武士・僧侶たちは各人が情報を集めネットワークを作って権益を守った。怪異は凶事の前兆とされ、寺社が訴え政権が収拾するという型が中世には成立していたが、ある出来事が貴族や武士の中で怪異と解釈され噂として広まったりと、政権にも対処できない怪異が蔓延した。政権が不安定になると都市住民も不安に駆られ、細川政元のような中心人物には怪異の噂が付きまとった。寺社は祭礼に人を集めるためにも怪異を喧伝したが、貴賤の集まる祭礼もまた怪異を生んだ。2023/04/23
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