内容説明
英文学教授の山田信氏は、去年突然渡仏中にパリで洗礼を受けカトリック信者になった、と妻の桂子(30歳)さんに事後告白をした……。夫君の裏切りに、自尊心を傷つけられた桂子さんは、二人の可愛い子供を思いながらも、棄教か離婚かを夫君にせまり、二人だけの宗教戦争がはじまった! 禁じられた愛や夫婦交換を、キリスト教を背景に描き、現代の知識人家庭を風刺する長編小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
安南
48
倉橋作品は、一時期夢中になって読んだが、この作品を境に熱が冷め途中で投げ出したままだった。今思えば、この選民思想的な主人公等を嫌味に感じたのと漢詩や故事などをひいた衒学趣味に歯が立たなかったのが因かもしれない(今でも歯が欠けそう)それと前作『夢の浮橋』の存在を知らなかったのも大きい。あちらで初々しい桂子さんを見知っていたら、また違った印象を持っただろう。さて、こちらは更にギリシャの神々の度を増して、とても凡人には太刀打ちできそうもない。オリュンポスに住まう彼等だものキリスト教を蔑視するのも仕方がないか。2015/02/23
あ げ こ
10
佳人、才子のみである事の典雅さ。世俗的な矮小さの内にとどまるもののいない、醜さや劣悪さと言った類のものとはまるで縁のない世界。敵が頼るのはその流麗な景観にそぐわぬもの。本来彼等が関わるはずのないもの。曰く、病。戦争は真剣、けれど見苦しく歪む事はない。当然。桂子さんの揺るぎなさたるや。堅牢、堅固、強靭…では無粋か。幽玄、婉麗。まず硬さが不要なのだ。守りを固める必要がない。そもそもおいそれと触る事が出来ぬ場所にあるのだし。その肥沃さ故、備える必要もない。物事の大体は愉しむ事が出来るのだし。そりゃ参るほかない。2016/04/26
調“本”薬局問悶堂
1
あぁおもしろい。 実在する宗教でこんな小説を書くなんてすごいな。勇気がある。 桂子さんはかっこいい女性だな。“かっこいい”という言葉が適当なのかは分からないけど。 自分は幸せな人間だと思いこむ力、美しいと思いこむ力。それは大きい。 そんな人は絶対に自殺なんて考えないし、人を殺そうなんて思いもつかないと思う。宗教だって必要ないのだと思う。 強い。 そんな人の自尊心が傷つけられる瞬間って、無からなにか生まれるような衝撃だろうな。 《2020年6月 登録》2008/06/14
世玖珠ありす
0
【夢の浮橋】に引続き、再読です。あれから十年後、30歳になった桂子さんの物語。大学時代の教授である山田氏と結婚後、二人の子供にも恵まれ、順風満帆だった桂子さんの日常に、急に影を落としたのは、夫のキリスト教への入信。『信仰』を『病気』に例える倉橋氏の皮肉が冴え渡る一冊。2016/11/12