内容説明
夜ごと体を離れて首だけが恋人のもとに通う娘の怪しげな恋慕と残酷な死「首の飛ぶ女」。長風呂がたたってガイコツになった少年の病名は突発性溶肉症と診断された「事故」。夢の中に現われる世にも醜悪な男のたくらみ「交換」。元宰相ボーブラ氏はいかにしてカボチャ顔になったのか「カボチャ奇譚」など、幻想・残酷・邪心・淫猥な世界を、著者独特の文体でえぐりだす怪奇短編20編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
210
希代の名バーテンダー倉橋由美子さんの手になる極上のカクテルが20篇。心行くまで堪能できること請け合い。いずれの掌篇にも死の影が寄り添い、時には魔的な存在が仄見えていたりもする。そして、ほぼ全篇にわたってエロティシズムの香りも立ち込めている。もちろん、エロスはタナトスと隣り合わせであることは言うまでもない。倉橋由美子流の「歓を尽くす」というのもなかなかに官能的な表現だ。そうか。「尽くす」のかと、一人納得したりもする。一つ一つはごく短いのだけれど、これだけで物語世界が作れてしまうことに、もう驚嘆するばかり。2015/03/09
ムッネニーク
73
77冊目『倉橋由美子の怪奇掌篇』(倉橋由美子 著、1988年3月、新潮社) 全20本の掌篇小説から成る一冊。 全ての掌篇に共通しているのは、怪奇物語もしくは恐怖物語であるという点。 それぞれ10ページ程度の短い物語だが、切れ味の良さを感じる観点と耽美的な内容が読むものを惹きつける。 文章も美しいので、陰惨な結末の物語でも不思議と気持ちの良い読了感がある。 「事故」や「カボチャ奇譚」などは、コメディとしても楽しめる。 「台所へ出ると、栗鼠と仔犬、仔兎が口々に何やら言いながら私を待っていた。」2021/09/12
いたろう
45
(再読)20編の掌篇からなる短編集。最後にオチがついていたり、終わり方が鮮やかで余韻を残したり、短編集というよりショート・ショートの趣き。一人こっそり読む怪異譚は、のぞきからくりで覗く秘密の世界。純文学からエンタメ、ナンセンスまで、そして、和洋中の怪異譚にいかに通じているか、改めて倉橋由美子の守備範囲の広さに気付かされた。2014/12/24
こばまり
37
実家より持ち帰り久方ぶりの【再読】。肉感、肉欲、肉食。肉を感じさせる短編集。だのに洗練。ハイセンス。堪能致しました。2015/02/11
うえうえ
21
翻訳みたいな文体。短く余韻があり、何度でも読める。谷崎ならこういう素材を芸術作品に仕上げるが、この作者はおもしろい読み物に仕上げた。[事故]はカフカの変身を連想した。2018/09/04