内容説明
本書は、「文語の苑」創設者の一人である故岡崎久彦大使を記念して実施された文語創作文のコンクール「岡崎久彦文語作品賞」の第一回受賞者日高聡子の作品集である。受賞作品『文(ふみ)通はし』をはじめ、短編集『おひたちの記』『たそがれ百景』を収載。作者の人生觀察、人生觀の断片が美しく洗練された文語で綴られ、現代であつても日本人のこころを惹きつける文語文の魅力を伝える。
【おひたちの記 序】より
ささがにのいと幼きより父なる人の、折々に古文うそぶくを口眞似に眞似て、何とやらむ深き心は知らねども、耳に心地よき言の葉の數々かな、願はくばかかる文ども讀み集めて、今の世の人々の英語佛蘭西語いかで學びとらむとすらむやうに、いにしへの言の葉まねびとらばや、さて新しき物語一つ二つ、古き文字もて書き出でばやと思ふ心はありながら、師もなき友もなき孤獨の身、はやる心のやうやう冷め行くを、折からにふと目とどめし新聞の記事、今の世にも文語文熱く語る同志ありとぞ、こは嬉しとも嬉し同じ心に古語を思ふともがらのありけるは、我いかにしてかかる人々の輪に交はらむ、そのかみの振り分け髪の昔より我は昔の戀しきものを。
【目次】
文通はし (岡崎久彦文語作品賞平成二十八年度受賞作品)
受賞にあたりて
おひたちの記
序 / かやぎや / 同行二人 / 新米時代 / ピザと握り飯 / 盂蘭盆会
たそがれ百景
独り暮らし / リハビリ / 認知症 / ショートステイ / 逆縁 / 春の別れ / リフォーム / 待合室 / 携帯電話 / 早期リタイア / 孤独死 / 友待つ雪 / ふるさと / リストラ / 忘れ形見 / 鬱 / 背負子 / 料理教室 / 阿修羅像 / 隣人