内容説明
生誕百年を迎える、日本映画界の巨匠・市川崑。その作品は現在も色褪せない。『ビルマの竪琴』『黒い十人の女』『炎上』『東京オリンピック』『細雪』など、実に多彩なジャンルの名作を撮り続けたその監督人生をたどり、“情”を解体するクールな演出、襖の映り方から涙の流れ方まで徹底的にこだわり抜いた画作りなど、卓抜な映画術に迫る。『犬神家の一族』の徹底解剖、“金田一耕助”石坂浩二の謎解きインタビューも収録。 ※新潮新書に掲載の写真の一部は、電子版には収録しておりません。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kinkin
81
市川崑という監督は、様々なジャンルを撮る監督だ。文芸作品から、アニメ、時代劇に「東京オリンピック」のような記録映画まで。「東京オリンピック」はかなりバッシングを浴びたようだ。それがこの「犬神家の一族」で復活し、テレビCMや「木枯し紋次郎」のようないままでにない時代劇を手がける。ただタイトルには「犬神家に一族」と入っているがインタビューや解説は後半にまとめられていたのがすこし不満。独特のカット割りの編集は印象深い。むしろ市川崑の技術論としてまとめてもよかったような気がした。2015/12/01
HANA
61
これはまだ日本映画が力を持っていた時のお話。構成は三つに分けられており、第一部が市川崑の生涯と作風の遍歴、第二部が「犬神家の一族」の構造分析、第三部が石坂浩二へのインタビューとなっている。映画は監督で見る方ではないので、この監督で見たのは金田一耕助シリーズだけだが、詳しく解説されると他の作品も見たくなってくる。『細雪』とか『金閣寺』とか、映画化しているのを全然知らなかったし。中盤の犬神家の構成も、それぞれの場面を思い出しながら懐かしく読む。意外と場面覚えているものだなあ。全編是市川崑という一冊であった。2017/10/10
めしいらず
54
第1章は監督市川崑の第三者的でクールな視点、スタイリッシュな画作りへの偏執狂ぶりなど、その映画作法をフィルモグラフィから浮き彫りにする。第2章では1976年版「犬神家の一族」が、ミステリ映画としては異例にあんなにも面白い理由を細部から徹底的に解き明かし、コアなファンをも唸らせる。第3章では国民的"金田一耕助"こと石坂浩二氏にロングインタビューし、撮影当時の興味深いこぼれ話を沢山引き出している。中でも氏が目撃した市川崑と盟友黒澤明の雑談が映画ファンには宝物だ。2人の親しい間柄や市川の職人的気質が垣間見える。2018/12/15
めしいらず
46
再読。映画評論は沢山読んできたけれど、本書以上のものはちょっと思い浮かばない。作家性への理解度の深さ。1シーン1アクション毎に込められた意図を読み取る視座の精度。その裏付けを順序立てて示し読者に判り易く説明する解説力。隙のない完璧な解説ぶりに有無を言わさぬ説得力がある。それはこの映画のコアなファンですら目から鱗が何十枚も落ちるほど。己の浅い理解度が恥ずかしくなる。犯人が判明すれば見返されない本格推理映画にあって、幾度も再鑑賞させた上で尚面白がらせるのにはちゃんと理由がある。この映画のファンには必読の一冊。2021/08/23
焼きそばん
42
巨匠市川監督の傑作、犬神家の一族にこめた監督の意図を推理して読み説き、それを石坂浩二へのインタビューにより検証する映画解説本です。映画とドラマの謎解き説明のパーツがなるほど、その違いをわかり易く教えてくれます。また、犯人がわかっているからこそ落ち着いて見れるので楽しめるかもしれませんね。2016/10/09