内容説明
遠い先ばかり見つめていた父は、絶望している。堅実な実際家の母は、希望をかけている。父と母の半生を中心に、複雑な一族の系譜を私小説作家が揺るぎなく描ききった長篇小説。新たに発見された、著者の手の入った原稿で野口冨士男の処女作ともいえる作品を七十余年の時を経て、初文庫化。
目次
(その一)
(その二)
(その三)
(その四)
(その五)
(その六)
(その七)
(その八)
(その九)
(その十)
(その十一)
(その十二)
著者に代わって読者へ 平井一麥
年譜 平井一麥
著書目録 平井一麥
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
otmsy
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冒頭の複雑な人物関係にちょっと驚く(錺職って読めないし)。花柳の世界の言葉も当時の町並みも今は消えてしまったもの。想像することは難しい。でも作者の筆致に載せられて、作品を読み進めていくと、花柳の世界と当時の人々の生活が甦ってくる。その頃にはこれらの言葉が実にしっくりくる。もちろん、「待合」、「不見転」といった言葉が纏っていたものを、登場人物と同じような感覚で受け取ることはできないのかもしれない。それでも、次々と困難に見舞われても、自らの身をもとに懸命に稼ぐ多代の幸せを祈らずにいられない。 2019/01/30