内容説明
「自分の命が消滅した後でも世界は何事もなく進んでいく」
ニュートリノ観測でノーベル物理学賞は確実といわれながら、がんで世を去った戸塚洋二氏。
本書は戸塚氏が余命を宣告された後、ひそかに匿名でつづっていたブログを編集したものである。がんとの闘病のみならず、人生論、科学論、医学論、教育論、宗教論と、さまざまな分野に筆が及んでおり、どのテーマであってもシャープな切り口で綴られている。その一方で、庭や公園で花を愛でつつ病から気をそらせている心境も書かれる。
巻末には立花隆氏との対談を収録。この対談が掲載された2008年8月号の発売日に、戸塚氏は世を去った。逝去の直前まで明晰さを保った科学者による感動の手記。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐島楓
57
昨年ノーベル賞を受賞なさった梶田先生のお師匠にあたる方のブログを記録したもの。末期がんの治療日記を淡々と、ときにユーモアを交えながら書いていらっしゃる。そこにはほぼ理性と知性しかない。まさに科学者として自分の病状を分析して、おなくなりになった方なのである。御存命でいらしたらノーベル賞は戸塚先生のものでもあったことはほぼ確実。悔やまれてならない。2016/02/17
井月 奎(いづき けい)
44
この本は戸塚洋二という科学者自らの末期がんの状況報告といった感のあるブログを抄して書籍化したものです。ご自分の病状や抗がん剤の投与記録をつぶさにつける極めて冷静な科学者らしい行いをすると同時に、理解できない死を恐れ、その気持ちを吐露することも隠さずに書き綴ります。死をただ恐れるのではなく、生きることと死ぬことへの深い洞察になっており、それは読む者にとって死への恐れを軽くしてくれもします。科学者として偉大なだけではなく、深い優しさと思いやりを抱く哲学者でもあります。すごい人って本当においでになるのですね。2020/02/06
ゆうゆうpanda
32
『癌に取り組んだ科学者』と言ったほうがいいかも知れない。再々発、骨や脳への転移という7年に及ぶ壮絶な闘病記録。ガンマーカーの数値や腫瘍の大きさをグラフ化するなど、科学者らしい習性は、仕事にどこまで係われるか、今の状態でいつまで生きられるかを知るために必要な行為だった。最期の方は奥様の育てた草花を観察する愛に充ちた日々。研究の成果で得られた余命と言えるだろう。戸塚さん、ノーベル賞に名前は刻まれなくても、あなたという記憶はこの本で後世に残りました。あなたの人柄は確かに私を貫き、手応えのある温もりを残しました。2015/11/22
to boy
24
戸塚さんは私の高校の先輩に当たります。ノーベル賞を受賞していたら我が校始まっていらいの快挙でしたが残念です。根っからの物理学者ですね。何でも数値化、グラフ化して論理的に考察していきます。右脳の妄想を左脳が観察するって人間業じゃあないです。植物学、仏教への関心も物理学者としての態度が素敵に思えました。小柴さんからの教育についての記述が印象的でした。偉大な人を失ってしまったという気がします。「ガンになった理由はすべて自分にある。自分以外を決して恨まない」。良い言葉です。2015/12/19
pollack
17
ニュートリノの質量発見でノーベル賞を受賞する前に癌で逝去した戸塚博士の闘病記です。科学者らしい簡潔明晰な文章は非常に分かりやすい。そして自分の病状を客観的に捉えて鋭く分析と考察は流石超一流の研究者。死の恐怖や生への渇望はあまり触れていませんが、ぐっと内に秘めて耐えていたかと思うと辛くなります。本書は博士のブログの抜粋ですが、話題は多彩で、闘病記以外に科学、教育、仏教、身近な花など、博士は亡くなるまで本当にポジティブだったのでしょう。私も数年前に大病を経験した身。共感し、考えさせられ、そして励まされました。2017/03/10