内容説明
オーストラリアとニューギニアの間にあるトレス諸島。その中のひとつ、木曜島では、明治時代から太平洋戦争前まで、海底にいる白蝶貝を採るために日本人ダイヴァーが活躍していた。サメの恐怖、潜水病との戦いに耐えつつ、異国の海に潜り続けた男たちの哀歓と軌跡から日本人を描き出した表題作他、吉田松陰と奇縁を持ちながらついに立身出世を果たしえなかった富永有隣を描いた「有隣は悪形にて」など歴史短篇三篇を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
106
司馬作品としては少し異色の印象がある短編集でした。どの作品も歴史的無名とも言えるような人たちを描いているからかもしれません。歴史に名を残すような人々を描く壮大な歴史物語もいいですが、このように脇を飾った人を描くのもまた、想いが詰まっているような気がします。2016/10/29
レアル
71
短編集。明治時代から昭和初期にかけて、オーストラリアの木曜島まで出稼ぎに行った男たちを描いた表題作。そして幕末を生きる男たちを描く作品等、歴史上に登場する主役級より少し脇役気味の人達を描いた作品が多く、「有隣は悪形にて」「大楽源太郎の生死」は対になるような作品で、短編のせいか、司馬氏の小説によくある「余談」も詳細過ぎる記述もなく、シャープな描写が目立つ作品が多かった。一つの作品に人物の思いをギュッと収めた重厚で味わい深い作品ばかりで、短編でもその人の生き様を十分に味わえるのも司馬氏の良さなのかもしれない。2015/10/06
Taka
48
短編集。木曜島はオーストラリアにある実際の島の名前。戦前そこに素潜り漁の出稼ぎに行っていた日本人がいたらしい。その他の編は幕末が中心。2019/06/04
AICHAN
46
Kindle本。再読。 オーストラリアの北方に浮かぶ小島“木曜島”。その近海の海底には膨大な数の白蝶貝がいた。昔、貴人のボタンは白蝶貝から作られていた。この貝を獲っていたのは日本人だった。オーストラリアの英国人は白蝶貝の生息を知っていたが、20~40メートルも潜ってそれを獲る英国人はいなかった。ニューギニアの原住民もマライ人も中国人もダメだった。ひとり日本人だけは狂ったように潜って白蝶貝を獲り続けた。金のためもあったが彼らを突き動かしていたのは競争心の激しさのようだった…。2020/11/18
壮の字
46
「異胎の世紀」からのながれで。木曜島、オーストラリアが大英帝国からの独立をはじめて世界に示した場所である。なんか聞き覚えがあるぞ、とおもったら司馬エッセーでした。その小島を訪れるわけだが、「街道をゆく」のノリじゃない。あえていえば「草原の記」の海原版ということころか。辺境という共通点もある、そして文章が詩的で美しい。後半三篇はうってかわって、なぜか明治維新の英傑たちの名声の影に埋もれた男たちを追う。富永有隣、大楽源太郎、小室信夫。三人とも名声に隠れながらも、そのおかげで生き延びたといえる。口は災いのもと。2018/11/14