内容説明
オーストラリアとニューギニアの間にあるトレス諸島。その中のひとつ、木曜島では、明治時代から太平洋戦争前まで、海底にいる白蝶貝を採るために日本人ダイヴァーが活躍していた。サメの恐怖、潜水病との戦いに耐えつつ、異国の海に潜り続けた男たちの哀歓と軌跡から日本人を描き出した表題作他、吉田松陰と奇縁を持ちながらついに立身出世を果たしえなかった富永有隣を描いた「有隣は悪形にて」など歴史短篇三篇を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
107
司馬作品としては少し異色の印象がある短編集でした。どの作品も歴史的無名とも言えるような人たちを描いているからかもしれません。歴史に名を残すような人々を描く壮大な歴史物語もいいですが、このように脇を飾った人を描くのもまた、想いが詰まっているような気がします。2016/10/29
NAO
59
司馬遼太郎最後の短編集。「木曜島の夜会」木曜島は、オーストラリアとニューギニア島の間のトレス海峡に位置する小さな島で、かつてボタンの原料としてヨーロッパに高値で輸出されていた白蝶貝を海底に潜って採っていたのは熊野の男たちだった。戦前、貧しい山村の住民が生き残りをかけた出稼ぎ。その過酷さはそのまま日本の貧しさだったのに、そういった過酷な出稼ぎのとはあまり知られていない。だからこそ、作者はそれを書き残こそうと考えたのだろう。「有隣は悪形にて」と「大楽源太郎の生死」は、幕末の長州人2人を主人公とした歴史小説。2024/04/07
Taka
49
短編集。木曜島はオーストラリアにある実際の島の名前。戦前そこに素潜り漁の出稼ぎに行っていた日本人がいたらしい。その他の編は幕末が中心。2019/06/04
AICHAN
47
Kindle本。再読。 オーストラリアの北方に浮かぶ小島“木曜島”。その近海の海底には膨大な数の白蝶貝がいた。昔、貴人のボタンは白蝶貝から作られていた。この貝を獲っていたのは日本人だった。オーストラリアの英国人は白蝶貝の生息を知っていたが、20~40メートルも潜ってそれを獲る英国人はいなかった。ニューギニアの原住民もマライ人も中国人もダメだった。ひとり日本人だけは狂ったように潜って白蝶貝を獲り続けた。金のためもあったが彼らを突き動かしていたのは競争心の激しさのようだった…。2020/11/18
Book & Travel
45
表題作『木曜島の夜会』は、明治から昭和の時代、白蝶貝の採取のため豪州北部の木曜島へ赴いた日本人達を追った中編。熊野古座川と現地で彼らに昔の話を聞きつつ描き出す近代のお伽噺のような歴史物語の場景と、彼らの心情に迫る筆致に引き込まれ、派手さはないが心に残る一編だった。他は幕末の3編。獄中で吉田松陰と出会い、後に松下村塾に招かれた富永有隣の『有隣は悪形にて』が特に印象的。暴虐狡猾な有隣に心酔する松陰の清廉さも凄いが、そんな松陰の真心を踏みにじり「老狡」と怒らせた有隣の悪辣さも凄まじい。その縁で彼の人生が転々と→2020/12/30