内容説明
明治維新を迎え「江戸」が「東京」となった後も、それを「とうきやう」とか「とうけい」と様々に呼ぶ人がいた。明治にはまだ「日本語」はなかったのである。「日本語(標準語)」を作ることこそが国(国家という意識)を作ることである――近代言語学を初めて日本に導入すると同時に、標準語の制定や仮名遣いの統一などを通じて「近代日本語」の成立にきわめて大きな役割を果たした国語学者・上田万年とその時代を描く。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
みつ
22
日本語の仮名遣いを巡る論争場面から始まり、これは面白そうと読み進める。文語文と口語文、歴史的仮名遣いと現代仮名遣い(さらには上田の提唱した長音を多用したより発音に近い表記)は、全く違った事柄(ほぼ戦後に長く活躍した小説家石川淳は、口語文ながら歴史的仮名遣いを使用)なので、まずその整理から必要。日本を統一国家として成立させるため、話し言葉で全国の誰でもコミュニケーションがとれるようにすることが必須になる。ラジオもない時代だから文字情報がそれを先導するしかない。とすれば文語文は話し言葉と乖離しすぎ➡️ 2022/12/11
tamami
14
ご維新を経たものの、世間で書かれる文章は漢文調文語体、一方の話し言葉は庶民の方言そのままのべらんめえ調の口語体。混迷する明治期の「言葉」に対して、「日本語」を作ることこそが国を作ることである、という思いで言文一致を中心とした「日本語」を目指して奮闘した人々の事績を、明治という時代相の下に鮮やかに浮かび上がらせる。物語の主人公とされる国語学者の上田万年は、夏目漱石や斎藤緑雨らと同年の生まれであり、万年の個人的知己につながる人々、その他学窓の先輩後輩が織りなす学究的日本語創造の物語は、抜群に面白い。ことに、→2020/04/19
HMax
12
日本語を作った男に感謝。「英語公用語」「漢字廃止」のような極端な政策が採用されていたら、「英語で思考できるもの」「英語が話せるもの」「日本語を話せるもの」と階層社会となってること間違いなし。明治初期の大学では、英語で授業がなされ、海外留学しなければ博士になれなかったようで、自国語で技術的な思考が出来、進んだ技術を翻訳出来るようになった功績は大きいです。日本語が不自由な新島襄や内村鑑三の「江戸以前の文化を存在しないものとしたい」という努力のおかげで、古典を読むのが難しくなったのは残念ですが。森鴎外可哀想。2016/09/17
チェアー
10
怪書。だって肝心の上田万年の影が薄いんだもん。周囲の森鴎外とか夏目漱石のほうが出番が多い。しかも、関係する人が出てきたら、すぐに寄り道、寄り道の繰り返し。それでも飽きずに500ページ以上を読み通せるのは、歴史の裏舞台(本人たちはそんなことは思っていなかった)で人々が生き生きと「新しい時代」を築くために奔走する姿を見られたためだろうか。上田万年は、嫌がらせ的なことをされた官僚とも、私的には良好な関係を保ったという。大きな視点では同じものを目指す「同志」と認識していたからに違いない。そんな熱い時代だったのだ。2016/05/17
Lila Eule
10
現代の日本語が明治に生まれ損なって終戦後に開花したとは。それまで、言文乖離の不便に国民は晒され続けていたとは。民意の言文一致の仮名遣いを10年教育続けたにも拘わらず、国語国字の制定に向かおうとした時、森鴎外が陸軍軍服姿で三時間の反対演説をして旧仮名の時代に反転していたとは。文部省教育が留まるなかで、漱石作品や唱歌で言文一致が広まっていたとは。その前線の上田万年なる言語学者の愛国心は威圧人格の鴎外とは異次元だ。実に面白い。2016/04/29
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