内容説明
ささやかだが平穏な暮らしが、その日、失われた。怪しい男たちが訪れた時刻から。三浦半島で小さなボート屋を経営していた渋谷は、海上で不審な船に襲われたうえ、店と従業員を炎の中に失う。かつて日本有数の登山家として知られた渋谷は、自らの能力のすべてを投じ、真実を掴むための孤独な闘いを開始する。牙を剥き出し襲いかかる「国家」に、個人はどう抗うことが出来るのか。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐々陽太朗(K.Tsubota)
99
志水辰夫の冒険小説デビュー作。本書と『裂けて海峡』、そして『背いて故郷』は志水氏の初期三部作と呼ばれている。克己心の塊のような男が、ひたすら自らの想いを抑制しながら強くあろうと生きていく。心情はセンチメンタルなくせにそうではないように振る舞う。クールであろうとしながら、抑えきれない熱い想い。ハードボイルドですねぇ。こういう小説は大好物です。今月3冊目のシミタツ。シミタツ節に酔い痴れております。2019/04/26
森オサム
53
本書初読は30年位前でしょうか。当時はハードボイルド、冒険小説がブームでした。日本冒険小説協会も解散し、志水辰夫も時代小説、恋愛小説等昔とは題材が変わってしまいました。北方謙三は中国行っちゃったし、佐々木譲は警察行っちゃったし、船戸与一は死んじゃったし。本作もソ連のスパイがどうとか言う話ですから、時代が違うんでしょうけどね。ただハッキリ言い切りますが、無双に面白いですよ!三部構成ですが、特に第二部は秀逸。この登録数(講談社版合わせても)の少なさには愕然としました。みんな知らないのかなぁ、読まずに死ねるか!2017/03/21
GAKU
39
久し振りのシミタツ。過去を捨て平穏に暮していた男に怪しい男たちが現れ、国家規模の陰謀に巻き込まれて行く第一部。そして第二部の択捉島潜入から脱出までの手に汗握る活劇。そしてクライマックスの第三部。まさにシミタツのデビュー作にして、国産冒険小説の傑作との誉れ高い作品。35年前の作品とはいえ、スピーディーな展開と派手な活劇は今読んでも充分に楽しめた。ちょうどこの当時は船戸与一、佐々木譲、大沢在昌、逢坂剛、北方謙三という冒険小説の御大が続々デビューした時代。⇒2016/01/22
背番号10@せばてん。
29
【1985版_東西ミステリーベスト100_27位】1996年5月7日読了。あらすじは忘却の彼方。(2019年1月21日入力)1996/05/07
辺辺
22
ハラハラドキドキの連続で面白い。冒険小説の傑作である。一民間人が冷戦時代の米ソ2大国の抗争に巻き込まれるというスケールの大きさが魅力。特に択捉島での脱出劇が手に汗握る緊張感たっぷり。二重スパイを炙り出す使い捨て駒とされてるけど底で眠ってる男の逞しさと強さを引きだす結果となった。個人的に島生まれで亡くなった家族と一緒に島の土になろうとした老人の哀しみが一番印象に残った。ハードボイルドだな。ただ、闘いと陰謀策略の中でひ弱な女の存在がイマイチしっくりこない。恋愛云々などの描写は余計なセンチメンタルを生んでない?2020/06/15