内容説明
「タマシイの容器はいろいろだからね」
貝殻細工の小函、夕顔の鉢植え、蓋つきの飯茶碗……。思いがけないことから、彼らの運命は動きはじめる。妖しく煌く14の短篇集
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
163
いかにも長野さんらしい現と夢の間の幻想的な14編の掌編集。いまいち統一されたテーマがつかみ取れずこの本全体の感想を抱けなかった。物によってはBL色が強くて苦手なものも。 以下にお気に入りの話だけ。 ▪️希いはひとつ、花の下にて/生と死が連なっていて、重なり合う瞬間がふと訪れてもおかしくない、そんな気持ち。 ▪️雨過天青、ウリバタケ、雨師/静かな田園風景、暗く落つる雨の音。一体何処から自分の尺度が通じない異界に迷いこんだのか。和の雰囲気と少しこわい感じが好き。 「あづなひ」の意味をひきたくなります。2019/06/17
rico
94
長野さんらしい美しい文章で描かれるのは、おっさん・・・いえ、お兄さん’ずLOVE、とでもいうんでしょうか。少年から少し年を重ねた若者たちの、ちょっと不思議で、ちょっと怖い14の物語。最初はとまどいましたが、これはこれで味わい深い。後書きによれば「ささやかな「おかしみ」を感じてもらえればけっこう」とのこと。なるほど。タイトルからして、春夏冬=「秋ない」=「あきない」ね。にんまりしてしまう。こんな長野さんの世界も悪くない。個人的には「アパートの鍵」「空耳」「猫にご飯」がツボでした。2020/09/19
masa
69
変な気負いなく空気のように描かれる同性愛はまるで達人の武術。すごく自然に物語の中では当然のこととして成立しているから、こちらが意識しないともはや仕掛けられたことにも気づけない。だから、かわいいと好意を抱いた登場人物が男性であることにハッとして、自分が今まで恋をしてきた相手は女性だからというわけではないのだと、当たり前のことに思い当たる。きっと自分にとって好ましい性質を持っているひとが女性に多かっただけの話なのだ。男性が好きとか女性が好きとか、そんなこと大した問題じゃないね。あなたがあなただから好きなんだ。2021/05/29
優希
66
フワフワしたこの世ともあの世ともつかないような独特の世界があると思いました。曖昧な世界観に耽美的な空気感がとても心地よいです。何処かでクスリと笑えるような軽さがあり、読みやすく、でも彼女の作品らしく男性同士の恋愛もサラリと書かれているのがいいですね。ドキリとする言葉、彼女ならではの不思議なガジェットが余韻と共に少し不思議な雰囲気を漂わせています。サクッと読める短編集ですが、素敵な印象画を見ているような感覚になる感覚が好きですね。2014/11/23
カナン
58
衝動を30%、焦燥を30%、運命を30%、そこに夢や浪漫や美しく儚いものを10%足して混ぜ合わせたら、こんな風に完成された恋の形になるのだろう。春夏冬中の世界では、幾何かの売買をきっかけに夢と現がしなやかに混じり合い、柔らかで淡い色彩に染まりながら深みへと沈んでは無数の繋がりを育んでいく。女という性を否定した限定的な舞台で、豊かにとめどなく溢れていく瑞々しい生と、あえかに息衝く甘美な死の香り。淫靡な同性愛というよりも、同じ形の器を有した者の間だけで通じ、若木のような心だけが吸い上げることが出来る幸福な幻。2016/05/22
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