内容説明
古今東西、あるゆる方法で自伝は書かれた。しかし、《音》によって生涯が語られたことは、まだない。――少年の耳に残る草の呼吸、虫の羽音。落下してくる焼夷弾の無気味な唸り。焼跡に流れるジャズのメロディ。恐怖とともに聞いた「できたらしい」という女のひと言……。昭和5年に大阪に生れてから大学を卒業するまでの青春を、《音》の記憶によって再現する。日本文学大賞受賞。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
さっと
7
開高健の自伝。もともと遠心力で書くことから内面に沿って書くことを解禁して出来上がった記念碑的名作『青い月曜日』があるものの、結果的には不満だらけで今度は耳の記憶に沿って書くことにした全面改稿版といった趣向のもの。幼少時の野に遊んでいたころや、父の死といった『青い月曜日』では描かれなかった記憶もあるが、やはり重くのしかかったのは戦争と青春であり、これらの記憶は冗長といわれようと個人的には前著のほうを推したい。2019/06/30
KENTA
5
開高健が癖のある文体で自分自身を語る。耳の記憶でと最初に書いているが、子どもができたあたりからはもうそれどころではなくなっている感じ。舞台は天王寺周辺。自分の生活圏内と重なっていて、読みながら、生活とお話の中を行ったり来たりしてました。2011/08/28
AU
4
生活と地続きにある戦禍の恐ろしさが感じられた。 ノミ・シラミだらけの服とか、「もはや戦後ではない」といわれる時代になっても侵される絶糧夢とかとか。 続編で語られるベトナム戦争での爆撃などによる命の危機も当然、戦禍として恐怖感は覚えるけど、日常生活にひたひたと侵食してくる開高さんのこれらの記憶は、リアリティをもって想像できる怖さがあってわたしの中に深い印象を留めた。
はりーさん
2
筆者自身の幼年期の体験から学生で子供を持つまでの流れが読めた。特に戦後すぐの混乱期の無茶苦茶の中、子供でも必死に生にしがみついているところは凄まじい。倫理も衛生問題も何も関係ない混沌を生き抜いたからこそ、筆者は後に地獄と化していたベトナムの戦場に何度も出向いたのだろう。2013/10/01
地を這う円盤
1
トグロを巻いたような文体。兎に角感覚と感覚の連綿みたいなものをつらつらと書き連ねているのだが、ハマると抜け出せなくなる。本が手放せなくなる。"ひまさえあれば家を出てあてどもなく、せかせかした足どりで、あちらこちら歩きまわっていたが、たちどまるとたちまちどこからか不安と孤独が押し寄せてくる。それにいっそ全身で溺れてしまいたいこともあるが、狂気に近いその苦痛を思うと、じっとしていられなくなって、肩に乗せたまま町へ出て行くしかない"。幼少期から結婚まで。2020/05/02
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