内容説明
年上の女に誘惑され愛されたばかりに、両親にやっかいばらいにされたカール少年は故国ドイツを追われアメリカに渡った。やっとのことでニューヨークの伯父にめぐりあい、面倒をみてもらえるようになったのもつかの間、何とも不可解な理由で伯父の家からも追い出される。追放されつづけるカール少年は放浪の旅に出るが……。冒険、裏切り、そして転落――。軽妙に描かれるカフカ的冒険小説。カフカ文学への入門書としても最適な1冊。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
93
カフカの「孤独三部作」と言われる作品のうちの1つになります。とはいえ、カフカの作品としては毛色が少し異なるような気がしました。年上の女性に愛されたが故に家を出ることになったカールはアメリカで伯父に面倒を見てもらえることになったと思いきや、かつてと同じように家を追い出されるというのが何とも言えない気持ちになります。カールは困難と追放に遭う運命だったように思えてなりません。不可解なことが次々と起こるにも関わらず、納得して受け入れるのは何故でしょう。一見不遇なのに明るさと軽妙さで語るのも不思議に感じます。2016/06/10
マウリツィウス
24
【『アメリカ/失踪者』】「失踪者」=「日記に記された記述目録」を再現化することでフランツ・カフカは匿名性を帯びた《孤高作家》へと姿を変えていく。そして、古典時代に存在した《ユダヤ教》を塗り替えた。古代ユダヤ教を起源とすることでのカフカは確かな記憶をも刻み、つまり神秘主義世界観を否定根拠に用いることでのその存在性は立証されるも古典時代を再現化した《記憶》を確認追想していく-。ホメロス以降の古典価値論は無効化される、古典ギリシャ時代を再現する記録文書との対概念にFRANZ/KAFKAを《K》と刻む意味想起。2013/08/03
阿呆った(旧・ことうら)
23
不条理in・the・USA。◆『城』『審判』とともにカフカの孤独三部作の一つ。◆未完のようなのでつづきが気になるところ。でもハッピーエンドではなさそう。2017/03/29
しんすけ
18
『城』や『審判』に比較すると読みやすい。物語の進行も前二書よりも自然な雰囲気があり面白い。 だが主人公カール・ロスマンこの物語の中で周囲に翻弄されていくことは理解を超えている。故郷で厄介者とされアメリカに渡るが、叔父からは理由も解らないまま縁を切られる。さらにヤクザな連中にまとわりつかれ、せっかく得た職も失ってしまう。 けっして不器用ではないカールなのだが、周囲に翻弄されて不器用な生き方を続けている。2020/03/17
とまと
14
遍歴小説というものが割りと好きで、この小説も好きだ。オクラホマへの汽車旅行の場面で結ばれているが、この先いいことが待ち受けている気がしない。「もし善意がないなら、弁解することは不可能じゃないか(中略)いま彼がなにを言ってみたところで、片っぱしから自分の言いたいと思った気持から遠くかけ離れたものにして受けとられてしまうことや、また善にせよ、悪にせよ、結局、判断のやりかた次第ひとつにかかっていることをカールは知りぬいていたのだ。」2013/07/04