内容説明
どうして伝わらないのだろう。こんなに近くにいるのに。2013年夏、大学三年生の金田知英は、友人と夏休みに海外旅行へ行くため、パスポートを取得した。自身が在日韓国人であることは知っていたが、「韓国人であること」を意識しないように育てられた知英は、パスポートの色を見て、改めて自分の国籍を意識した。知英の友人でK-POPが大好きな梓、新大久保のカフェで働く韓国人留学生のジュンミン、ヘイトスピーチに憤り抗議活動に目覚める地方在住の良美、日本に帰化をしたのち韓国で学ぶことを選んだ龍平、そして知英。自分は「なにじん」なのか、自分の居場所はどこにあるのか、隣にいる人とわかり合えないのはなぜなのか。ふたつの国で揺れる知英の葛藤と再生を中心に、五人の男女が悩みながらも立ち上がる姿を描く傑作長編。 「馴染まない。生まれて初めて手にするパスポート。赤や紺ではない、濃い緑色。表には、まったく読めないハングル文字。英語で、REPUBLIC OF KOREAとも書かれている。ページを開くと、まぎれもない自分の顔がそこにあった」――(本文より)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ゆみねこ
80
パスポート取得で知らされた自分の出自。金田知英という日本人だと思っていた自分が金知英(キムジヨン)。韓流ブーム・Kポップ・嫌韓・ヘイトスピーチ、国籍とアイデンティティー、在日の人たちの抱える悩み。考えさせられた1冊。 2016/08/03
takaC
78
そういう話だとは知らずに図書室から借りてきて読んだけど、難しいテーマだな。ヘタなコメントできないや。ビビンバが食べたくなった。2016/10/18
ネギっ子gen
61
巻末に「ヘイトスピーチ」に関する参考文献が並ぶ。その「ヘイトスピーチ」をめぐる6つの物語。「日本生まれ、キム・ジョン」は登場人物の一人。この知英(キム・ジョン)の国籍が「韓国」で、その恋人の龍平は国籍が「日本」。日本生まれの日本育ちで同様の境遇。それでもパスポートは違う。知英は「緑」で、龍平は「赤」。題名が暗示するように、日韓の間に横たわる問題を巧みに浮き上がらせつつ、「在日」という存在について繊細に言葉を尽くし多方面から切り込んでいる。最終頁の、<『嫌い』に巻き込まれないでね>に、作者の祈りを感じた。⇒2020/04/11
おたま
55
題名の「緑と赤」は、パスポートの色を示している。赤は日本国籍の人のパスポートの色。それに対して在日韓国人のパスポートの色は緑だ、ということは初めて知った。主人公の金田知英(かねだちえ)は、16歳のときに、初めて自分が本名は金知英(キムジヨン)であり、在日韓国人の四世だと知らされる。大学に入学し、友人の梓と一緒にグァムに旅行しようということになったとき、初めてパスポートの色も、書かれている言葉も違うことを知る。つまりそれは自分が明確に在日韓国人であることを明言することになる。そこから、知英の遍歴は始まる。2025/03/07
taiko
55
グアム旅行を前にパスポートを申請した知英の手元にあるのは緑色のハングル文字の書かれたパスポートだった。…在日韓国人の知英、韓流アイドル好きの梓、新大久保のカフェで働くジュンミン、ヘイトスピーチに嫌悪する良美、帰化し日本国籍を取得したものの韓国へ留学した龍平。それぞれの立場から見た日韓問題が描かれます。日本国籍を持ち日本で暮らし、韓国にあまり興味を持っていなかった自分には、今回この作品に出会うまで、身近な話ではなかったです。今まさに複雑になっている日韓関係を思うと、当事者達には更に思うことは多々ある→続く2019/11/18