内容説明
ジャズ全盛の1970年代。サックスプレイヤー通称「イモナベ」は、『孵化』というライブを全裸で演奏して以降、精神に変調をきたしたとの噂と共にジャズシーンから姿を消した。ところが1990年、小説家になりたての私は『変態』と題されたライブチラシを見つける。イモナベの行方を尋ねた「私」が見たのは絶対にありえない戦慄の風景だった。カフカ『変身』とジャズを見事に融合させた傑作連作短編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
みっちゃんondrums
18
虫は嫌いなので、読むのをためらっていたけれど、奥泉センセぇの作品を網羅するために、そして文庫化されたのだから、読まねばと。カフカの『変身』とジャズが融合した奇妙な、奥泉節炸裂の物語。ジャズの知識は全く無いし、『変身』も読んでいないし、難しかった。しかし、幾人かの語り手による、テナーサックス奏者「いもなべ」と、「虫樹」なるものにまつわる謎めいた、狂気を孕んだ物語に浸った。インディ・ジョーンズのあのシーンみたいな描写もやっぱりあったわ~。ラストは別の意味でぞわーっときた。→以下メモ2016/05/17
しんこい
9
音楽を文章にして感じさせるのは難しいが、謎のロングトーンでせまるジャズの感じは伝わるし、カフカの変身と絡めて、虫の樹やら入れ墨男、狂った?プレーヤーの探求など嘘か誠かわからない2019/03/14
Ikuto Nagura
8
私は奥泉作品が大好きだ。虚と実の間の相転移の巧みさと、それでいてリアリティを失わない展開で、確固たる真実など存在しないこと、人間が見たいものしか認識できないことを見せつけてくれるからだ。この小説でもそれを堪能したが、それに加えて埼玉南西部や西東京の地理描写がたまらない。川越の芋煎餅に新所沢パルコ、国分寺界隈に西武多摩川線是政駅、正に旧西武鉄道の導線で北多摩に埼玉の寒貧さが侵攻してくる。そして『虫樹譚』では、千葉に対する埼玉の悪意を感じさせる適当な描写に、思わず笑ってしまう。村上春樹には決して書けない叙景。2015/12/14
Majnun
7
村上春樹の「恋するザムザ」への対抗意識かと邪推して初出を調べるとなんと奥泉の方は2006年の作で、こちらが先だった。しかし村上も奥泉も、カフカ本人がこの作品を友人に朗読して聴かせる時に、時折吹き出しながら読んでいたことを作品中で重視しているという共通点があり、そこが非常に興味深い。だって、「変身」の物語に絶望以外の要素、ないでしょう?奥泉は本作中で、理解するということは、誤解の始まりに他ならない、と言っています。 絶望の物語を、心底面白そうに語るカフカという人間が「書かせた」小説なんだと思います。2016/01/04
本虫雪山
7
今作も奥泉節をたっぷり堪能させていただきました!ジャズの知識は何もない私ですが、この奇妙な作品集に徐々に絡め取られていくような、それが不快なのに恍惚となるような。無名のジャズマンを描いた「川辺のザムザ」。その小説を書いた″私"の随筆。奥泉さん自身の体験談か?と思いきやそれもまた奇妙に歪んでいき…。何がリアルで何がフィクションか?この境目の曖昧なメタな感覚がさすが奥泉さん。そして「虫樹譚」が面白かった!まとまりのない若者言葉と近未来の不思議な設定と捻じくれていく物語。ゾッとしながらも中毒になる。2015/12/13