内容説明
男が人生の階段を上っていく。どの段でなにが起こるのか、だれにもわからない――。なんとなく再婚してもいいかと思っている男が、昔あこがれていた女に会いながら、違和感を感じてしまう。男の複雑な気持ちを描いた表題作。定年退職した男の家出と死を綴った「男の家出」、ネオン製作会社が崩壊していく中での男たちの姿を描いた「夜の饗宴」など8編を収録した珠玉の短編小説集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ach¡
41
再婚の二文字から漂うキンモクセイの香りに誘われてジャケ買い、ならぬタイトル借り。ヨッスィ作品だからかなんとなく表題に感傷をそそられる。勝手にネガポヨなお話を期待し胸が高鳴る。そんな邪心を抱きこの本を手に取ったヤツは私だけだろうか…(どんだけ私の心は捻くれているんだろか…)まぁいい。ヨッスィはそんな意地の悪い期待を裏切らない上品な味付けで男と女の機微を調理しフルコースで提供してくれた。どのお話も淡々とした語り口で一見何気ない日常を切り取ったように見えるのにトリミングセンスが絶妙。大変美味しゅうございますです2017/03/15
mondo
39
「再婚」という短編集は、1995年に刊行されているが、いずれもオール読物など、主に男性会社員の読者をターゲットに投稿されていたもので、時代的には50年代から60年代に書かれていたもの。なので、昭和の時代背景が色濃く出ている。色恋ものも、吉村昭にかかると、人間の欲深さや醜さなども淡々と味わえる。そして、読み終えた後、この後の展開はどうなるのだろうと想像を掻き立てられ、余韻が残る。この辺りは他の小説にも重なる。私は「老眼鏡」や「再婚」、「貸金庫」が良かった。2022/06/13
kinkin
39
吉村昭の短編小説は、ドラマチックでもなくハッピーエンドでもなくそれでいて現実味のある話が多い。この本には8話が載っている。『老眼鏡』や『貸金庫』という話がよかった。特に『貸金庫』は少し重い話かと思いきや、なかなかイイ結末だった。2015/03/24
おにぎりの具が鮑でゴメンナサイ
38
いろんな仕事をしてみて思うに、やはり私ったら何でもできてしまう有能野郎である。しかし何でもできる奴ほどたちが悪い。そんなくだらないスキルよりも、ひとつの対象に集中して取り組み日々小さな努力を重ね、家族を養い子を育み、人生を完走することこそが素晴らしいことだとつくづく思う。巷では運動会たけなわの時節で、寂寞の想いに時空が歪むのを近年の慣例としているのだが、来週はひっそりと金網越しにでもいいから勇姿を目に焼き付けに行こうと思う。これを最後にするつもりで。どんな小説でも書けてしまう氏が市井の人生を描いた短編集。2017/05/28
葵
9
女・子供・仕事に振り回され、狼狽える男たち。けれど、何事もなかったかのように彼らは日常に帰っていく。なんとなく女の方が強いイメージだけど、なんだ、男もちゃんと強いじゃん。と、見直したような気持ち。古い人の本だからか?2016/05/25