内容説明
フレッド・フィリプスが走っている……その言葉は八月の静かな午後、さながら牧師のお茶会で誰かが発したおならのように鳴りひびいた。庭師を周章狼狽させたのは、邸の氷室に鎮座していた無惨な死骸――性別は男。だが、胴体を何ものかに食い荒らされたその死骸は、人々の嘔吐を誘うばかりで、いっこうに素姓を明示しようとしない。はたして彼は何者なのか? 迷走する推理と精妙な人物造形が読む者を八幡の藪知らずに彷徨わせ、伝統的な探偵小説に織りこまれた洞察の数々が清冽な感動を呼ぶ。新しい古典と言うにふさわしい、まさに斬新な物語。英国推理作家協会最優秀新人賞受賞作!/解説=巽昌章
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
セウテス
85
〔再読〕屋敷の主人が失踪、警察は妻のフィービによる殺人と考え捜査をするが、遺体は発見されず未解決のまま。10年後屋敷内の氷室から、動物に食い荒らされた無惨な死体が見つかる。しかし、遺体の身元も死因も特定されないまま、読者は何を推理すべきか解らない。設定も魅力的で、人間ドラマとしては様々な社会問題を含み、物語の読みやすさは巧みだ。氷室の死体も屋敷の主人の事件も、真相はある意味明らかにはなる。だが読者が伏線を探し、本を閉じ推理に時間を重ねても、答えは唐突に出てくるミステリ仕立ての物語である事は不満が残る。 2020/10/07
miri
76
CWA最優秀新人賞受賞作。通常ミステリーは、死体発見、殺人が確定してストーリーが進むのがセオリー。この作品は、死体発見時遺体の損傷が激しく殺人の有無すら不明。しかし、十年前の館の主人の失踪に住人の女性達が関わっているのではないかとの核心的な部分があやふやなまま進んでいくので、読者も頭を絞って真相を見極めようと物語に巻き込まれていくのです。女性達のそれぞれ憎めない個性的なキャラクターが際立ち、警察との攻防すらいつしか応援したくなる。秀作です。2020/09/20
いっくん
29
長編1作目。氷室で発見された身元不明の死体は、十年前に失踪した実業家デイヴィッド・メイベリーなのか?ストリーチ・グレインジの屋敷に住むフィービ、アン、ダイアナの三人の女性の闘いの物語…。ミステリとしては少々外されたと思うところはあるけど、登場人物の初めの印象が、読了後にはガラリと変わって違う世界がみえてくる。大袈裟なトリックなんかは無いけど、満足度は高いです(^_^*)2018/03/26
山ちょ13
29
「氷の家/ミネット・ウォルターズ」読了。デビュー作だそうです。3人の女性が程よい感じに個性的で、特にアンは男が何故か深追いしてしまいたくなるような魅力を持っていたと思う。実際惹きつけられた人がいた。氷室の死体の発見によって明らかになり始めるストリーチ・グレインジとその周辺の人々の人間関係、そして過去。差別、偏見、暴力、欲望、権力、、、色々なモノが蠢きあっていた。2017/04/08
そばかす♪
22
最初に見せられていた現実と、最後に表れた真実とが180度違って、なかなか楽しく読めたミステリーだった。人の心こそ一番手に負えないもの、権力と結びついたとき悲劇はこんな風に倍増される。最優秀新人賞をとった作品だそうです。2014/09/04