内容説明
辛口コメディアンのダニエルはカルト教団に遺伝子を託す。2000年後ユーモアや性愛の失われた世界で生き続けるネオ・ヒューマンたち。現代と未来が交互に語られるSF的長篇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
やいっち
70
ウエルベックは、SF的な舞台で極端な状況を設定することで、極限状況での人間性を露わにしようとする。 本書では、カルト教団だからこそのカネに糸目をつけな研究施設で遺伝子が保存されることで、原理的には人は永遠の命を得る、という設定。 カルト教団の教祖が猿山のボスのような存在になることで、ネオ・ヒューマンたちの集団はユーモアや性愛の失われた世界で生き続ける。教祖(ボス)だけは、集団を率いるための虚構を保ち続けなければならないし、性愛を一手に引き受けて子をなしていかないと集団が成り立たなくなる。 2018/02/21
ふみあき
65
ウエルベック3冊目。「愛は個人の自由や、自立の中には存在しない」ということでテーマは一貫してるように思える。そして主人公ダニエルと同年の私にも、それは痛いほど分かる。しかし彼がなぜセックスを人生の一大事に思うのか、なぜ子供という存在を憎悪するのか、なぜエステルのようなくだらない女に執心するのか、なぜイザベルを全身全霊で愛せないのか理解できない。社会生活と物理的接触の消滅した未来、ネオ・ヒューマンの日々は、涅槃の境地と言っていいと思うが、なぜこの理想世界は悪夢に見えるのだろう? お釈迦様は間違っていたのか?2023/02/17
zirou1984
53
文庫版で再読。デビュー作からテーマにし続けたセックスと資本主義という欲望から滲み出る悲哀をベースに現代アートと新興宗教が持つキッチュさを混ぜ合わせ、SFというガジェットでコーティングされた最高傑作。諦観を極めることで見えてくる人類の滑稽さをこれでもかと暴き立て、誰もが目を背けようとする老いと死という現実を呆れるほどに投げつける。「つらい」と思わず声に出したくなる痛みに貫かれながらも、その痛みの先、ぼろぼろになった先にある美しい風景は、愛の可能性を確信させるのだ。全ての痛みが祝福へと変わる瞬間のカタルシス。2016/11/25
かわうそ
43
そろそろ愛よりも老いに心を揺さぶられるアラフォー世代のわたくしとしては容赦なく描かれる老いの絶望に震えることしきり。永遠の倦怠の中に生きる未来人の視点を導入することで苦悩に満ち溢れた人生も案外悪くないのかもと感じさせる構成が巧い。2016/06/12
kazi
40
絶望。読み終わって心がズーンです。この人ほど魂をえぐる作家っていないね!デビュー作の「闘争領域の拡大」から最新の「セロトニン」まで、ウェルベックが著作において扱っているテーマは一貫していると思う。それは自由主義の結果として“性愛”の分野において発生する“競争”であり、“競争”の結果として発生する“敗者”の存在であり、“老化”の必然としてすべての人間は“敗者”となるという事実である。2021/04/04