内容説明
染色家の妻の留学に同行し、作家はノルウェーに一年間滞在した。光り輝く束の間の夏、暗雲垂れ込める太陽のない冬、歓喜とともに訪れる春。まっさらな心で出会った異郷の人々との触れ合いを縦糸に、北欧の四季、文学、芸術を横糸に、六年の歳月をかけて織り上げられた精神の恢復と再生のタペストリー。野間文芸賞受賞作。
目次
一、蜂たちが戻ってくる、戻ってくる
二、酸っぱい林檎
三、エン、トゥ、トレ……
四、極夜
五、少年は船に乗って
六、グ ユール!
七、ヤマシギ
八、ポースケ
九、谷間に夜鶯の声が
十、眼の奥の熾火
十一、歓喜の五月
十二、ノルゲ!
著者から読者へ
年譜
著書目録
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐島楓
66
数日かけて読んだ。まったく知らない土地に旅をしている感覚がつねにつきまとい、読み終えてしまうのが惜しいくらいだった。安心感に包まれて心地よくいられたのは、きっと著者がこの世界と人間を信じており、心身共に恢復への道を突き進んでいるから。理不尽と出会わないわけではないが、それもいつの間にか懐にくるんでいるから。私小説というのはフィクションなので、すべてが事実ではないのだろうが、どこか現実の出来事に寄り添っているような気持ちがしていた。私も恢復の途上にあるのだろうか。2021/07/07
しあん
19
まさに異国の地での魂の再生の物語でした。輝かしいまでの北欧の自然、異国の人々とのふれあいは、時に衝突ともなり、読んでいて心が痛む場面もありましたが、それでもこの本の一行一行がとてもいとおしく感じられました。久しぶりに読みごたえのある長編を読み心が満たされました。2017/04/18
ヨノスケ
11
妻のノルウェー留学に同行した1年間の滞在記である。とても分厚い本で、異国での日常生活が丁寧に綴られている。最初は劇的な事が起こりそうもない、この本を最後まで読み通せるか?心配だったが、そんなことはなかった。北欧での海外旅行気分を存分に味わう事ができ、いつかノルウェーに行ってみたいとさえ思えた。2021/04/22
W.
11
フヅクエの日記をきっかけに、5ヶ月くらいかけて読みました。私小説と言われる分野は初めてで、最初はあまり面白くなかったが、ノルウェーで暮らす一人の人間の一年間を近くで一緒に過ごしたような気になりました。作者がノルウェーで暮らしていた1998年のフランスワールドカップは、高校生になる時期で初めてサッカーのワールドカップを見るきっかけになった多感な時期でした。最後にそこにつながったことが、自分にとってこの本と特別つながったような気がして嬉しかったです。 最後の終わり方がものすごくさわやか。2021/03/12
rou
10
その土地にあって土地の作家を理解することや、鳥を、様々な芸術作品中の表象として表出された鳥を実際のその土地に生きる鳥と像を重ねることは、語り手の異国の生活の中心となり、自覚的でないにせよ生きづらさから解き放つものだ。そしてそこで生活すること。その人たちと結びつくこと。何よりも、その土地の言葉を身に着け、思考や感慨を苦労しながら丹念に表現を獲得していくこと。伝えること。ひょっとしたら我々が異国に身を置かなかったとしても、これらのひとつひとつは、意識的に向き合うはずのことだった。2025/01/13
-
- 電子書籍
- イタズラな指先で愛して【マイクロ】(1…