内容説明
向田邦子2冊目の随筆集。「荒城の月」の「めぐる盃かげさして」の一節を「眠る盃」と覚えてしまった少女時代の回想に、戦前のサラリーマン家庭の暮らしをいきいきと甦らせる表題作をはじめ、なにげない日常から鮮やかな人生を切りとる珠玉の随筆集。知的なユーモアと鋭い感性、美意識を内に包んだ温かで魅力的な人柄が偲ばれるファン必読の書。文字が大きく読みやすくなった新組版。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アキ
83
かの有名な「水羊羹」。「まず水羊羹の命は切口と角であります」文章のキレもいい。センスがいい。女っぷりがいい。思いっきり笑わせたり、ほろっとさせたり、人情を感じたり、江戸っ子のきっぷを感じる。そして「字のない葉書」最近絵本が出版されたが、角田光代がこの文章を子ども向けに書いてる時、涙が止まらなかったそうだ。それから「一冊の本」。納戸の小窓から夏目漱石全集にひと筋の光が差し込むのが目の前に見えるような小編。そして最後に「眠る盃」。彼女も頑固で感激屋の父親が産んだひとつの作品なのである。味のあるエッセイ集。2020/02/12
ちえ
52
絵本「字のない葉書」を読んだ後に読友さんに教えてもらった二冊のエッセー集のうち1冊。人や物事、自分自身へも向く鋭い観察眼、からりとしながら冷たさを感じない文章。作者の上質な人柄を感じ、早世されたことがひどく残念な気持ちと共に、ドラマの脚本やこの本のような文章を残してくれたこと、とても感謝です。2019/11/30
ちゅんさん
42
『字のないはがき』が素晴らしい。『新宿のライオン』も面白い。記憶違いってよくあることだけどライオンって飼えたんですね、驚き。それにしてもこの向田邦子という人はエッセイを書くのが抜群に上手いですね。これ以上のエッセイの書き手います?2023/09/12
ユメ
41
やはり向田さんは名手だ、と感じ入る。向田さんは、記憶の底に眠っているまだ現像されていない写真のような摑みどころのないものにピントを当て、見事にエッセイにしてしまう。妹が疎開先から送ってきた字のない葉書、中野のライオンといった思い出のひとコマが、私たちの前に鮮やかに映し出される。「思い出にも鮮度がある」という一文があるが、向田さんには思い出をよみがえらせる手品が使えたのではないかと思ってしまう。少なくとも、彼女が書き残したものは永遠だ。私のような昭和を知らない世代にも読み継がれてゆく。2018/02/22
niisun
33
昔読んだ『父の詫び状』で、向田さんの文章と向田さんのお父様のファンになりました。今回、そのお父様が疎開する小学一年の娘に「元気な日にはマルを書いて、毎日一枚ずつポストに入れなさい」と手渡す『字のない葉書』は、エピソードも文章も素晴らしく、さらに好きになりました。あと、謎の飲み物“ツルチック”や“中野のライオン”の話では、掲載された後の読者の反応も後日談として書かれていますが、私が産まれた1970年代は、読者が直接、著者に電話をする時代だったのかと、プライバシーや個人情報にやかましい現代からは驚きです。2024/01/23
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