内容説明
なぜ、「すべて」と「無」が一致するのか?
「私」はかけがえがなく、特異な存在であるがゆえに、消え去り無と化してしまう……。「語ること」と「沈黙」が、「すべて」と「無」が、正反対のものが折り重なる不思議な世界。独我論から私的言語論まで、「私」をめぐる独創的思考の奥深くまで分け入る。
[内容]
序章 不二の法門に入る──補助線として
第一章 独我論──「限界」としての「私」とは何か
第二章 無主体論──独我と無我は一致する
第三章 私的言語論──「ない」ままで「あり」続ける「私」
ウィトゲンシュタイン小伝
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
またの名
14
入不二というかなり風変わりな名字の由来が突如明かされる(仏典)。二項対立が意味を持たなくなる不二の法門の境地を説いた『維摩経』から「語り得ぬものについては沈黙しなければならない」へと跳び移り、いわゆる独我論と素朴な実在論が互いに反転し合って二項対立を超えたステージに次々上昇していく独特の論理を、本書でも遺憾なく発揮。弁証法でないのに弁証法のような思考がうねる運動に任せて綴られる解説は、ヴィトゲンシュタイン本人とはほとんど別物の独創的な哲学。字義通りの解説を求めるならハズレだけど、哲学としては完全に当たり。2016/09/15
masawo
8
ウィトゲンシュタインの思想に興味を持ち読んでみた。「私」という概念について解説しているが、章を追うごとに難解になっていく。しかし繰り返し読むと、著者の言わんとしていることが何となくわかってくる。そういう意味ではウィトゲンシュタイン入門書としては適していると思う。著者の書いた本も読んでみたいと思った。2021/04/27
無重力蜜柑
4
「独我論」「無体主義」「私的言語論」。全て(言語を思考と不可分であるとして)「言語化した時点で的を外してしまう、言語化不能な思考対象をいかに思考せんとするか」という話に思える。それに対する解の一つがフランス現代思想的な難解な比喩によって対象へ接近していく方法なのかな、と。ウィトゲンシュタインは論理実証主義の祖先みたいな認識があったが、やはり彼自身は形而上学的なものについて真摯に思考し続けようとした人だったんだと思う。2020/05/16
hitotoseno
4
論理の道筋が極めて明快で、一見難解なテーマも実は易しい問題なのではないかと思わせてくれるほど慎重に議論を積み重ねている。たとえば「隣接項のない私」などと言ってみても何のことやらさっぱりわからないが、本書は叙述を重ねることによって不可解な単語を見事に「示してくれる」。これが見事にウィトゲンシュタインの目指す「家族的類似」の方法とも一致しているのだ。どこまでウィトゲンシュタイン自身の思考と一致しているかはわからないが、この程度の分量で終わってしまうには惜しい書物である。2013/02/15
ろびん
3
とりあえず一冊、にとても良かったです。平易かつテーマが絞られているのでわかりやすいですね。2018/09/26