内容説明
<I> ……甘美な幸福とはこのことだったのか。</I>
<I> 肉体と精神とを仲立ちしている知覚がちぎれて、放たれていく刹那の残像と余韻――その先にある淵のふかみだ。</I>
黒十字サナトリウムの患者は、誰しも自分を吸血鬼だと思いこんでいる。
「救いの神がいるのか私は知らない。私は天国に居ないのだから。地獄にも落ちていないから、裁きの神がいるのかもわからない。でも神の法からは逃れられない。私が吸血鬼として甦っているのだから」
春の夜明けにむかって説き明かされていく療養所の秘密とは――。
第9回日本SF新人賞受賞作、絶版となっていたゴシック幻想奇譚が今よみがえる。