内容説明
関東軍の慰問に行けば、白いゴハンは食べ放題、おいしいお酒は呑み放題。そんな話にのせられて、敗色濃い1945年に満洲へ渡った二人の中堅落語家がいた。五代目古今亭志ん生と六代目三遊亭円生である。6月、7月は満洲各地の巡回慰問で絶好調。ところが8月の敗戦で、さっさと逃げた軍に置き去りにされ、大連まで命からがら落ちのびて長の足留め――。芸風・性格は正反対の両名が苦楽を共にし、ついに認め合う仲に。のちに名人と呼ばれた二人が戦後の混乱期の二年近くを生き抜いた中国大連で見たもの、経験した現実とは。歴史の影に隠された真実を鮮やかに描く傑作評伝劇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
姉勤
24
戯曲。慰問という名の疎開に近かった、満州への逃避の志ん生、弥次喜多よろしく同行の円生。敗戦後、ソ連軍、続いて共産軍が本格的に経営する前の、日本人の帰還事業が本格化するまでのエアポケットな時代の、反戦(ただし日本が無抵抗前提の)劇。戦争のせいで流浪するが、器用に身を立てる円生と、だらしがなくも芸の面では円生が敵わない志ん生。戦前の国体、ついで、露助、中共軍、貧困、耶蘇教、そして巻末の文芸評論家への反抗は威勢がいいが、冗長でメリハリもなく。まあ、自分は舞台の感覚がない人間だから、最後まで間が測れなかった。2018/05/19
メイロング
9
芝居のポスターはよく見ていた作。主役が円生と志ん生なだけ、実際の舞台上でのセリフの掛け合いがより重要で面白さのポイントになりそう。松尾も孝蔵も上手にキャラが分けられていて、彼らを通して終戦すぐの大連の様子が浮き彫りになってくる。2011/08/17
じょうこ
8
あとがきも面白い。脳内ステージで想像しながら読み進め、最後に作者によるお声が読めて、読後よし。 2025/07/20
purintabetainoo
6
第二次大戦。満州へ慰問に行った落語家2人の二年間。満州に行ったけど、日本が敗戦国となり帰れなくなってしまう。これが実話なのかと読みながら恐ろしくなり、また、当時の人のたくましく生き抜いた様に尊敬念を抱きながら読みました。 全体を通して、性格の違う円生と志ん生の掛け合いが心地よかった。また、「生きる=辛いことだが、その運命に身をゆだねることが大事」という思考のシスター達との交流場面で「笑い」というのは人間のたくましさなんだという考え方に感動。スマホ依存の私が同じ状況になったらと考えると、ゾッとする。2018/10/24
nightowl
4
落語に関しては全くの無知でミステリ作家が「志ん生一代」を書いたことを知っている位。落語家二人のキャラクターも面白いけれど、女性達の強さが光る。「十二人の手紙」の不幸な女性達の描写から数歩先へ進んでいる。先日行った鎌倉文学館の特集展示でもあっさりした紹介だったし、先の感想を読むとかなり不評。それでも悲惨さを笑い飛ばせ、という主題は後世に残るのでは。2020/08/17