内容説明
一切は空である。神も世界も私すらも実在しない。インド仏教がその核心として生んだ「空の思想」は絶対の否定の果てに、一切の聖なる甦りを目指す。やがてこの全否定の思考は、チベット・中国・日本への仏教東漸の中で、「世界を生みだす無」「真理としての空」という肯定色を強めていく。アジアで花開いたラディカリズムの深い変容を追う二千年史。
目次
はじめに
第1章 世界宗教と空
第2章 ヒンドゥー哲学と空思想
第3章 インド仏教の空思想
第4章 インド仏教における空(一)──原始仏教
第5章 インド仏教における空(二)──初期大乗仏教
第6章 空と否定──否定における領域の問題
第7章 空と自性
第8章 空と論理
第9章 後期インド仏教と空
第10章 チベット仏教における空
第11章 中国仏教における空(一)──天台仏教
第12章 中国仏教における空(二)──華厳仏教と禅
第13章 日本仏教における空(一)──最澄と空海
第14章 日本仏教における空(二)──仏教の近代化
第15章 空思想の現在
あとがき
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
nobi
78
現代の諸問題は悪しき人間主義に依っておりその根はキリスト教にあるという最終章の単純化に違和感あるものの読み直すと空の思想が瑞々しく端的な言葉で語られていることに目を瞠ってしまう。相手はサンスクリット語チベット語漢語…無数の経典それも禅問答のような内容。言葉を超えた境地をなお言葉で説明しようとしたインドの思想家達と同じく著者も空を図解含め熱く解析してゆく。主語と述語からなる言葉に囚われている限り悟りはないとする竜樹、仏の心は衆生の心と元来は同一のものであるという密教等々。この思想を今振り返る意味大きいかも。2019/05/13
イプシロン
41
「空」については、かれこれ10年は考えてきた。だが、納得できる答え(らしきもの)に辿りつけなかった。が、本著を読んで、ようやく筋道がついた気がした。空とは元来、あらゆるものを否定してゆくこと。そして否定しさった後に残るものこそ実在であるという思索のありかただろう。ここで否定されるのは、言語、概念、そして自己の外の世界すべてであるが、ここで重要なのは自己自身の本性は否定しきれずに残るのである。しかし、大概の空思想の解説は、自己の本性すら空であると否定し、絶対無とか無念無想に辿りつくことであるとしている。2022/09/09
karatte
19
再読。仏教の祖国インドにおける〈空〉なる思想は「ものに執着するな」という否定的側面が強かったが、中国・日本では〈空〉は真理の別名であり肯定的な評価がなされた。般若心経の有名なフレーズ「色即是空空即是色」も、論理的思考を重んじるインドでは敬遠されたという。如何にして〈空〉はその内容を変じていったのか。インドからチベットへ、また中国を経由して日本へ伝えられた〈空〉思想の変遷を概観できる、思想史の名に恥じぬ良書。2019/03/18
俊介
15
本書でもしばしば言及される『般若心経』にある、「色即是空、空即是色」というフレーズの順番が、この「空」という概念の変遷史を物語っていると思う。当初「空」は述語としか使われなかったが、いつの間にか主語として使われ出した。自ずと、それを形容しようとする新たなる言葉も生み出され、 「空」探求の歴史が始まっていったという事なのだと思う。本書はその時々の議論に即しながらその歴史を辿るので、難解ではあるが、とにかくも先人たちの膨大な議論が「空」という概念に厚みを与えているんだなということはうなずけた。2020/01/20
記憶喪失した男
14
この世界を実体のないものと考える空観、この世界を実体のあるものとして考える仮観、空観と仮観を同時に行う中観、この一心三観について書いてあったのだろう。2017/11/27