内容説明
奇妙な霧に覆われた世界を、アクセルとベアトリスの老夫婦は遠い地で暮らす息子との再会を信じてさまよう。旅するふたりを待つものとは……ブッカー賞作家が満を持して放つ、『わたしを離さないで』以来10年ぶりの新作長篇!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
622
カズオ・イシグロ待望の長編小説。時は6世紀後半くらいか。アーサー王亡き後の物語。すなわちブリトン人たちのいたイングランドにサクソン人が押し寄せ、やがてはケルト系のブリトン人をスコットランドやコーンウォール(一部はフランスのブルターニュへ)といった辺境に追いやって行こうとする、まさにその直前の時だ。小説は一貫して二重構造を取り、その二つの要素(一方は龍退治であり、他方は失われた記憶を求めての旅)が綯交ぜになったまま進行してゆく。物語の全体もそうだが、結末はことさらに、時の風が吹き渡る寂寥感の漂う物語である。2016/01/03
starbro
319
読メの皆様の評価も高いので、読んでみました。カズオ・イシグロ初読みです。ファンタジーベースの老夫婦の愛の物語ですんなり読めました。ですが私には欧米の高過ぎる評価はしっくり来ません。アーサー王伝説に馴染みがないせいでしょうか?それとも私の読力不足のせいでしょうか?イギリスでは年老いた夫が妻をお姫様と呼ぶのはそんなに違和感がないのかなぁ!2015/07/15
こうじ
173
⭐️⭐️⭐️3/5 なんでしょう、読み終わったけど、なんか変な気分。爺さんは結局ひとりなのかなぁ?記憶を取り戻すと紛争がおき、愛が終わってしまう?もしくは、今まで通り記憶なく愛として生きていくか?記憶か愛かどっちを選ぶかなぁ。愛かなぁ〜^_^;人を愛する事って大事だし、うーん、難しい〜2016/02/04
yamahiko
132
読み終わった後に、偶然、今回の記念講演の内容にふれました。 「国家の記憶とは何なのか。忘却が暴力の連鎖を止めたり、社会の大混乱をや紛争を防止したりする方法になるときはあるのか。一方、意図的な忘却やくじかれた正義の上に安定した自由な国家を築くことはできるのか。」 物語の面白さの底流にある著者の意志やメッセージを確認することができました。。2017/12/16
mukimi
128
想像以上にアドベンチャーなファンタジーでわくわく読み進められるが後半は考えさせられる。アクセルの『黒い影も愛情の一部』という言葉における愛情とは、過去の過ちを背負いそれでも生きてゆく自分を鼓舞するための決意なのではないか。しかし真の和解を得るには過去をぼやかさず正視せねばならないのか?そう断言するのは、弱い人間には酷だと感じる。忘れることと赦すことは分かち難いものだ。だからどちらともとれるラストの曖昧さに救われる。嫌な気持ちを忘れてしまったり情にほだされたりだから、私たちは生きていける。2021/05/22