内容説明
初めて司祭となった日本人の生涯を描く。
「何のために苦しい旅を続けるのか。いつかは捕まり、殺されることも確実なのだ。しかし、いかなる苦渋にみちても肩から人生の十字架を棄ててはならぬ」……。
船を乗り継ぎ、砂漠をよぎって、日本人として初めてエルサレムを訪れ、後にローマに学び司祭となった実在の人物・ペドロ岐部。
この破天荒な訪欧大旅行は、イエズス会亜等の組織の保護なしに、個人の自力で成し遂げた、日本人としても最初の快挙だった。やがて彼はキリシタン弾圧の荒れ狂う日本に立ち戻り、使命に生きたのだが……。
17世紀前半の日本におけるキリスト教弾圧の貴重な通史であり、「沈黙」とともに、作者のキリスト教観の理論的な最高峰に位置する一冊である。一日本人ペトロ岐部の劇的生涯を描く。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
97
物語としての作り込みは弱い印象でした。それが功を奏したのか、よりダイレクトに言いたいことが伝わってくるように思います。切支丹にとって穏やかな時代は短く、神学校で学んだ少年たちは追放されていく。同志を見捨てるかのように国を去ったペドロ岐部は、神父として国に戻ることを決意するのが苦しい。また、ローマへと渡った少年たちは宣教師たちの教えない「真実」を見て棄教するか信仰を貫くかに別れる。それぞれの立場における信仰のあり方を見つめ、弱い人々を描いたのが刺さります。2017/04/21
たぬ
24
☆4 遠藤周作23冊目。信仰心はかなり低いほうなのでここに出てくる信徒たちの気持ちはやはりわからないのですよ。十中八九殺されることがわかっているのに日本に戻るの? 即死させてくれるのならまだしも拷問でなぶり殺しにされるのに。肥桶の中で逆さづりなんて聞いただけで即棄教するでしょ…。切支丹迫害をネタにした小説はいくつか読んでいるけどどれもこれも惨たらしいよ。2021/09/14
lily
9
記念すべき1000冊目は,『沈黙』と双璧を成す遠藤周作のキリスト教小説。日本人で初めてエルサレムへ渡り,迫害吹き荒れる日本へ戻り殉教したペドロ岐部の物語。遣欧使節である千々石ミゲルの棄教の原因ともなった,カトリック教会の侵略に苦しむアジアの人々。世界を駆けながら同じ思いに駆り立てられたであろう岐部だが,苦しむ同胞のため勇敢にも神父には地獄の日本に飛び込む。同志に裏切られ,穴吊刑を受けながら信徒を励まし,最後は火刑に処される岐部の姿には,誰もがイエスの受難を想起するだろう。間違いなく名著。2020/01/18
月をみるもの
9
マカオからゴヤ、マスカットまでは船で、そこからは陸路でエルサレムまで行き、ローマにたどりついて神父になり、アユタヤとマニラ経由で日本に戻り、東北で殉教。どんだけ凄い人生なんだ>ペドロ岐部2017/11/21
ぷるぷる
5
「沈黙」は切支丹禁止令後に棄教した人の話。こちらは信仰を捨てず海外に出てローマまで辿り着いて神父となり帰国し殉教した著者曰く強い人が主人公。小説ではなく研究書の趣。波乱万丈という言葉では済まない凄まじい生き方に絶句。ここまで迫害した幕府に対して信者保護を名目に西洋に日本が制服されなかったことは幸運ではないのかと考えた。アジアの植民地化の状況を見てキリスト教の矛盾にも気づいていただろうに信仰を守りなぶり殺しにされるのが分かった上で日本に帰ってきた考えは理解し難いが自分自身の意思を貫いた強さに心打たれました。2023/01/03