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内容説明
【第9回読売論壇賞・第11回和辻哲郎文化賞受賞作】 第1次世界大戦後に訪れた民主主義の危機のなかで「精神の国の王」として甦り、さらにはナチズムにも利用された西欧思想の定立者・プラトン。彼は理想国家の提唱者なのか、全体主義の擁護者なのか。プラトンをめぐる激しい論戦を通して20世紀の哲学と政治思想の潮流を検証し、現代に警鐘を鳴らす注目作。(講談社学術文庫)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
棕櫚木庵
22
1/4) 今世紀初頭の,プラトン像の政治化と,それをめぐる「三十年戦争」(著者の冗談めいた?呼び方).全体の構成が明瞭で,取り上げられる対象も詳しく紹介されているので素人にも分かりやすい.もっとも,時として意味が取りにくいところがあったが,これはこちらの基礎教養の不足によるのだろう.大雑把な枠組みは:ゲオルゲ派などがプラトンを現代を生きかえらせようとしたが,それが政治的プラトン像を呼び起こし,捩じれた形でファシズムに継承される一方,激しい反発を惹き起こした・・・.“ドイツ教養市民層”の動向が興味深い.2020/08/01
さえきかずひこ
16
プラトン哲学が20世紀の欧米圏でいかにイデオロギー闘争に引き寄せられ"政治的に"論じられてきたかを明快に説く一冊。本書を読めば、いわゆる西欧のインテリにとっていかにプラトンが思想の根源にありーそれはつねに知的参照点だということでもあるー個々に程度の差こそあれ、彼に"呪縛"されているということを知れる。本書タイトルはポパー『開かれた社会とその敵』第1部(1945年)からの引用だが、彼だけがプラトンの呪いを受けているわけではない。第1部で異様にロマン主義的に彼の哲学を論じるゲオルグ派の面々もそれに当てはまる。2019/12/27
masabi
16
プラトンは果たしてファシストだったのか。プラトンが西洋の知的伝統の基礎を築いただけに専門家、非専門家を問わず20世紀に大きな論争を巻き起こした問いの変遷を見る。筆者の見解は、プラトンを現代の警告者として扱う。大衆に迎合し問題の先送りをする民主制ではなくて自律的、批判的に思考する個人が他者との議論を通じて問題解決の糸口を探る民主制へと進むべきだと警告する。日本でも強いリーダー待望論があるが、それはリーダーに問題解決を委ねる点であるべき民主制から遠ざかっているのだと思う。2015/06/13
hitotoseno
6
プラトンの生きたアテナイは公的領域と私的領域が混淆した空間だった。民衆はペルシア戦争の勝利以降市民権を得たものの、言ってみれば政治方面は素人だったため、好き勝手な放言を言い散らすのみで、挙句の果ては狡猾なレトリックを振り回すソフィストに教えを乞うていかに相手を打ち負かすかに明け暮れる日々だった。ここにおいてプラトンは境界があいまいになった公私の区別をつけるためにイデアという概念を発明し、それを理想的な思想を表すものと祀り上げ、堕落していく現実社会を批判するための道具とした。2016/03/12
Haruka Fukuhara
5
面白い本だった。特に戦時中のイギリスにおける、ドイツでのナチズムとプラトンの結び付きへの対処を論じた議論が興味深かった。20世紀は沢山の本が出されて情報が爆発的に増えた一方で、様々に議論が迷走した時代だったように見える。新しい議論を追おうにも土台が砂上の楼閣ということもありそうで、土台からじっくりと組立てていくことが必要なのではないかと感じた。2017/01/30