内容説明
【第9回読売論壇賞・第11回和辻哲郎文化賞受賞作】 第1次世界大戦後に訪れた民主主義の危機のなかで「精神の国の王」として甦り、さらにはナチズムにも利用された西欧思想の定立者・プラトン。彼は理想国家の提唱者なのか、全体主義の擁護者なのか。プラトンをめぐる激しい論戦を通して20世紀の哲学と政治思想の潮流を検証し、現代に警鐘を鳴らす注目作。(講談社学術文庫)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
うえぽん
43
元東大総長による読売論壇賞受賞作。プラトンを民主制、自由主義に対する攻撃武器として利用したナチス期の論調や「閉じた社会」のイデオローグと断罪したポパー等による20世紀前半の論戦を広く紹介し、その後の反批判も逍遥しつつ、20世紀末の受け身で素朴な自己中心的個人と、解を問い掛ける能力を失った自由民主主義への警告者としてのプラトンを描いたもの。出版四半世紀後の今は「歴史の終わり」が終わり、「一」を拒絶する「多」の開放と、巨大PF等の非政治権力を通じた「一」の非意識的受容が蔓延。再び警告を吟味すべき状況にあるか。2024/10/27
棕櫚木庵
22
1/4) 今世紀初頭の,プラトン像の政治化と,それをめぐる「三十年戦争」(著者の冗談めいた?呼び方).全体の構成が明瞭で,取り上げられる対象も詳しく紹介されているので素人にも分かりやすい.もっとも,時として意味が取りにくいところがあったが,これはこちらの基礎教養の不足によるのだろう.大雑把な枠組みは:ゲオルゲ派などがプラトンを現代を生きかえらせようとしたが,それが政治的プラトン像を呼び起こし,捩じれた形でファシズムに継承される一方,激しい反発を惹き起こした・・・.“ドイツ教養市民層”の動向が興味深い.2020/08/01
さえきかずひこ
16
プラトン哲学が20世紀の欧米圏でいかにイデオロギー闘争に引き寄せられ"政治的に"論じられてきたかを明快に説く一冊。本書を読めば、いわゆる西欧のインテリにとっていかにプラトンが思想の根源にありーそれはつねに知的参照点だということでもあるー個々に程度の差こそあれ、彼に"呪縛"されているということを知れる。本書タイトルはポパー『開かれた社会とその敵』第1部(1945年)からの引用だが、彼だけがプラトンの呪いを受けているわけではない。第1部で異様にロマン主義的に彼の哲学を論じるゲオルグ派の面々もそれに当てはまる。2019/12/27
masabi
16
プラトンは果たしてファシストだったのか。プラトンが西洋の知的伝統の基礎を築いただけに専門家、非専門家を問わず20世紀に大きな論争を巻き起こした問いの変遷を見る。筆者の見解は、プラトンを現代の警告者として扱う。大衆に迎合し問題の先送りをする民主制ではなくて自律的、批判的に思考する個人が他者との議論を通じて問題解決の糸口を探る民主制へと進むべきだと警告する。日本でも強いリーダー待望論があるが、それはリーダーに問題解決を委ねる点であるべき民主制から遠ざかっているのだと思う。2015/06/13
みのくま
6
近代ヨーロッパはプラトン「ポリテイア」の読解を変えた。当時の政治社会情勢を理解する為に、そして理想の国家像を輪郭づける為に、プラトンは読まれた。それは古代直接民主政を痛烈に批判し哲人王を提唱したプラトンを、全体主義や共産主義、そして人種差別のファシズムを提唱した思想家に変貌させたのだ。近代の政治社会情勢を基盤にプラトンを読み解く事は突然歪みを齎すが、難しいのは同時にプラトンの近代に通じる射程の広さが、その歪みにある一定の説得力を伴わせてしまう事である。ぼく達の想像力はプラトンの引力圏の内部に留まっている。2024/06/28
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