内容説明
ママを看取ったちひろは、ななめ向かいのアパートに住む中島くんと奇妙な同居生活を始めた。過去に受けた心の傷によって、体の触れ合いを極端に恐れる中島くん。中島くんに惹かれながらも、彼の抱える深い傷に戸惑いも感じているちひろ。恋と呼んでいいかわからない二人の関係が続く中、ある日中島くんから、一緒に昔の友達に会ってほしいと頼まれてーー。苦しみを背負った人々を癒す希望の物語。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
おしゃべりメガネ
167
「気持ちの暴力が少ない人」-この1文にこの作品の全てがつめこまれているのでしょう。作品自体はいつものばななさん以上にゆったりしていて、子守唄をきかされているかのような静かな空気につつまれています。決して退屈という意味ではなく、これほどにまで‘静けさ’を文字で書きつづる作家さんはそう多くはいないだろうなと感じずにはいられません。正直、他の作品に比べると平和すぎて、中だるみがなくはないテンポとも思えますが、たまにはこれだけゆっくりとしたばななさんも味わってみるべきかなと。ホント、ピュアな恋愛ってスゴいですね。2015/07/30
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
87
この人の話はことごとく人のこころの優しくて柔らかい部分をぎゅっと掴む。すべての人が美しいような。 スナックのママである母を失ったちひろは、アパートの窓越しに中島くんと知り合う。中島くんに心が寄り添っていくのを感じるが、彼には何かとんでもなく普通ではない傷を感じて… 「みずうみ」というタイトルとキラキラした装丁にふさわしい、静かでぞっとするほど淋しくて、じわじわと心に沁みてくる素敵なお話でした。 日々を慌ただしく過ごすといつしか積もってしまうものだけど、意識して「気持ちの暴力が少ない人」に私もなりたい。2018/04/13
風眠
85
特に大きな波乱やドラマが無いまま、淡々と静かに物語は終わるのかと思いきや、ラスト近くで、一気に全てが明らかにされていくところは圧巻だった。幼い頃、カルト教団に誘拐され、洗脳され、自分が居る場所は日本なのか何なのかも分からないという特殊な環境で数年を過ごした中島くん。教団から逃げ、無事に家族のもとへ戻り、これで安心・・・という風にはいかなかった。母親の強烈な愛情が、心の脆さや危うさとなって内側から家族を壊しはじめる。ひたひたと少しずつ水に浸っていくような、幸せでもない、けれど、哀しいだけでもない物語。2012/10/16
masa@レビューお休み中
80
記憶、愛情、欲望、恐怖…。どれもが誰の心にも必ずあるものである。それは当たり前のものなのに、それぞれの比重が偏りバランスが崩れてしまうと、ふつうの人間生活すら送ることができなくなってしまう。異常としか思えない過度の愛情、忘れようとしても決して忘れることができない記憶、人に触れることすらできなくなってしまうような恐怖…。それらは、生きる欲望を食い尽くす害虫のように心を蝕んでいく。異常な体験をすればするほど、平凡で当たり前のことが大切だということに気づくのかもしれない。2013/06/23
エドワード
51
美大を出て絵を描いているちひろが知りあった中島君は、非常に頭がいいのだが、どこか病んでいる。生い立ちに原因がある、とちひろは感じている。湖の畔に住む彼の友達もどこか変だ。みずうみつながりで読んだが、吉本ばななさんは、今の社会から少し外れた若者を描くのが抜群に上手いね。ちひろが壁画を描くことになった幼児教室に、途中で寄付する会社が現れ、会社のロゴを入れてくれ、と注文がつく話も実にリアルだ。「もう私の作品じゃない。」と拒否するちひろ。こういう、ネーミングライツみたいな会社と市長の態度、嫌だけど今の風潮だなあ。2019/04/27
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