内容説明
癌病と闘う妻の看病に明け暮れる日々、折々に私の記憶の底から立ち現れるのは、人生という旅の途中に出遇った人々の姿だった。父、母、旅芸人の息子、特攻帰りの教師、樺美智子、インドの老車夫、立川談志、軍歌を歌い合った老婆……。それぞれの生、それぞれの死に深く憶いを致す、自伝的連作考量(エッセイ)。そして、妻を看取るまで。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
マウンテンゴリラ
6
大衆批判、民主主義批判、アメリカ批判等で一時代を築いてきた思想家のある意味、生前遺書ともとれる深い趣のある作品として読めた。一般には、世の中の趨性に異を唱える、激情型知識人と見られる向きもあるのではないかと思われるが、個人的に私が著者に惹かれる理由の大きな一つに、批判の根本にある一貫した精神、それが、人間としてのバランス感覚、つまり、過度に進取性を求めず、歴史、伝統に基づくバランス感覚が必要といったことにあるように思う。そんな著者が、激烈な批判でなく、しみじみと、これもまたバランスという意味では、→(2)2017/09/13
讃壽鐵朗
3
自裁したのは、妻をモルヒネだけの投与で殺したこと、妻の死後の虚無感、老害で人に迷惑をかけないなどの理由が重なったもので、評論家とは実によく考える人間だとの読後感。2018/03/17
ドクターK(仮)
3
本書を読むと、思わず「アウトローのインテリ」とか「孤独なエリート」と呼びたくなるような著者の生き様が浮かび上がってくる。決して多数派(大衆)におもねず、世論に媚へつらうことのないその姿勢には、真の意味でエリートたらんとする、やせ我慢にも似た矜持が窺われる。本書に登場する人々は皆、気質においても言動においても多数派になることのできない少数者、いわば「アウトロー」ばかりであるが、そんな彼らと著者との交流には、ありふれた「多数派」同士の交流には決して見られない、悲哀感たっぷりの魅力がある。2016/04/09
万次
3
大傑作でした。2015/05/01
Nobuyoshi
1
私より3歳年上の著者が長患いの同年の妻を昨年に亡くし、連れ合いの欠落ってどういう事態なんだろうと色々考えた。70歳越えると生きるのが難しい、死を抱えているから。2016/02/29