内容説明
癌病と闘う妻の看病に明け暮れる日々、折々に私の記憶の底から立ち現れるのは、人生という旅の途中に出遇った人々の姿だった。父、母、旅芸人の息子、特攻帰りの教師、樺美智子、インドの老車夫、立川談志、軍歌を歌い合った老婆……。それぞれの生、それぞれの死に深く憶いを致す、自伝的連作考量(エッセイ)。そして、妻を看取るまで。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
踊る猫
33
すでに書かれてしまったものから類推していくのでけっきょくは「下衆の勘繰り」の域を出られないが、西部邁は自身も語るように「書くこと」でこそ自身の思考を深め、自己ときわめて真摯にして明晰な対話を重ねていった思想家・批評家なのではないかと思う。彼にとって妻を亡くしたことはたんなる愛妻を失っただけにとどまらず――これもまた「ゲスの極み」な読みなのを恥じるが――自身の保守思想の拠りどころ・要石というか、実に重大な「支え」を失ったことを意味したのではないか。いや、すべては推測に過ぎないが。気軽に読めない「絶歌」と思う2025/05/04
踊る猫
29
「非凡なる平凡」という副題が目を引く。「難解」「深遠」とされる西部邁の思想が行き着く先にあったのは、実にこうした日常性(およびその中に確実に存在しうる聖性・神秘性)だったのかもしれない。ここに収められた随筆群からうかがえるのもそうした、西部という人物が実に繊細な感受性を備えた一級の文筆家/エッセイストだったという事実だ(だがもちろん、それはけっして思考停止と現状への迎合につながるものではありえない)。漱石をも彷彿とさせる深遠な教養と感受性を備えた、実に理知的で読ませるブルージーな文章にしばし時を忘れて酔う2024/05/08
マウンテンゴリラ
6
大衆批判、民主主義批判、アメリカ批判等で一時代を築いてきた思想家のある意味、生前遺書ともとれる深い趣のある作品として読めた。一般には、世の中の趨性に異を唱える、激情型知識人と見られる向きもあるのではないかと思われるが、個人的に私が著者に惹かれる理由の大きな一つに、批判の根本にある一貫した精神、それが、人間としてのバランス感覚、つまり、過度に進取性を求めず、歴史、伝統に基づくバランス感覚が必要といったことにあるように思う。そんな著者が、激烈な批判でなく、しみじみと、これもまたバランスという意味では、→(2)2017/09/13
讃壽鐵朗
3
自裁したのは、妻をモルヒネだけの投与で殺したこと、妻の死後の虚無感、老害で人に迷惑をかけないなどの理由が重なったもので、評論家とは実によく考える人間だとの読後感。2018/03/17
ドクターK(仮)
3
本書を読むと、思わず「アウトローのインテリ」とか「孤独なエリート」と呼びたくなるような著者の生き様が浮かび上がってくる。決して多数派(大衆)におもねず、世論に媚へつらうことのないその姿勢には、真の意味でエリートたらんとする、やせ我慢にも似た矜持が窺われる。本書に登場する人々は皆、気質においても言動においても多数派になることのできない少数者、いわば「アウトロー」ばかりであるが、そんな彼らと著者との交流には、ありふれた「多数派」同士の交流には決して見られない、悲哀感たっぷりの魅力がある。2016/04/09
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