内容説明
名文家として知られる第一級のフランス文学者が、長年にわたって胸の内に秘めてきたモンテーニュへの思いを解き放ち、書き綴った名著。モンテーニュの生涯をたどりながら『エセー』の重要なくだりを引用しつつ考察し、またモンテーニュの生涯に戻っていく。そのおだやかなまなざしに貫かれた筆致から、人類の偉大な遺産である巨大な書物の全容が、そしてそこに刻まれた人間の真実である「生」と「死」の本質が浮かび上がってくる。(講談社学術文庫)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
呼戯人
20
モンテーニュに関する本は数多あるが、そんな中で静けさに満ちた端正な散文で綴られたモンテーニュ読本。書くことによって認識し、書くことによって生きるモンテーニュの生の在り方に心の底から讃嘆出来る本である。私も拙いながら、定年後の人生を文学に寄り添い、哲学によって生かされるような人生を送ってみたい。 遺産も城も教養もないが、しかし21世紀の庶民として、本を読み、文章を書き綴りながら最後まで生きていきたい。そんな風に思わせられる本である。2017/02/24
風に吹かれて
18
著者の恩師が渡辺一夫であることを知る。大江健三郎のエッセイなどを読んで渡辺一夫を知り岩波文庫増刷の機会に購入した『評論選 狂気について』と『フランス・ルネサンスの人々』を読みなおしたいと思っていたところでもあったので、少ない読書の中でこのようなつながりがあると嬉しい。「フランスの文学や思想の根本的な性格を決定した」モンテーニュ。ソクラテスなどギリシャ思想から影響を受けた「わたしは何を知っているだろうか?」(クセジュ)という精神の謙虚さから発する思索の奥深さ。『エセ―』を読まなければ・・・。2017/10/21
吟遊
15
もとが『モンテーニュ私記』であった(文庫化前)こともあり、系統立てて書いているわけでもない。が、生涯をおさえ、印象的なエピソードをおさえながら、エセーからの引用をいろんな種類とりそろえて、「健やかな生活者」としてのモンテーニュ像を描き出し、憧れる。2018/05/27
pino
10
小林秀雄や西田幾多郎などここ最近読んで深く心が揺さぶられた本に共通して出てきた人物がモンテーニュである。「自分の存在を誠実に享受することを知る」エセーの最後に綴られているこの言葉につきるのだと思う。そのためには己を知ること、己は世界に映すことでしか掴みえないこと。その世界も己も常に変化しており、確かなものなど何一つないこと。だからこそ謙虚であること。美しい魂とは多様さと柔軟さの中にあること。「よく生き、よく死にたい」そう願い追求する人間の美への欲求ってなんなのだろう。徒然草を読んだ時にも思ったけれど。2018/08/24
うえ
8
「「私はほかの主題よりいっそう私を研究する。これが私の形而上学であり、自然学である」なるほどこういう態度からは、近代科学は生まれて来ないだろう。その代わり、人間性の探求というモラリストたちの仕事が、モンテーニュを源流として生まれて来るのであって、それがフランスの文学や思想の根本的な性格を決定した」「かれは、あれほど生きることを楽しみながら、神を生の敵だとは少しも考えていなかった」「ところが、モンテーニュが描いた人間像に、つぎに来る17世紀は反駁するのである。これは歴史のなかによく現れる現象」2016/02/10