内容説明
「人生作り」には興味がない。流れる季節を感じるだけで、世界は十分面白い――。夫を亡くしてひとり暮らしの荻原萩子・五十五歳が抱く、バイト仲間の年下女子・早蕨へのときめきと憧れ。――「反人生」/世界を旅する寅次郎、ユーモアのセンスあふれる桃男。男友だちから新たな感覚を学ぼうとする大沼の行く末は……。――「越境と逸脱」など全4編。男と女、親と子、先輩と後輩、夫と妻。無意識に人々のイメージに染み付いている役割や常識を超えて、自由でゆるやかな連帯のかたちを見つける作品集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
103
以前から気になっていた(特にペンネーム)山崎ナオコーラ、初読です。短編集で頁数が少ないので一気読みでした。著者が目標としている『誰にでもわかる言葉で、誰にも書けない文章を書きたい』という意識・瑞々しい感性は伝わってきました。4編の中では『越境と逸脱』が一番のオススメです。他の作品も機会があれば読みたいと考えています。2015/10/14
アキ・ラメーテ@家捨亭半為飯
69
4つの異なる関係の中での人とのつながりの物語。「社会に出ない」の中で「まあ、気ぐらい遣わせてよ。いいんじゃねえの。みんなで生きているんだし」という台詞にグッときた。最近の風潮なのか、人に気を遣わせること、迷惑をかけることなどを過剰なほど恐れて生きているようにみえる人たちの中で、こんな風に言い切ってしまえるのは素敵なことだ。今度、誰かに「気を遣わせてすみません」と言われたりしたら「気ぐらい使わせてよ」って言ってみようか。2016/03/23
pukupuku
62
「反人生」って、なんだろなぁって思いながら読んだけど、なんだかよくわからなかった。萩子、早蕨の気持ちに沿えなくて、もし、自分の近くにいたら、自分とは噛み合わなくて、うわべだけの付き合いしかできないだろうな。そんなことを思いつつ、自分とは合わなそうだから、読むのやめちゃおっかなぁと思いながらも捲った先の「越境と逸脱」にガツンとやられた。なんだか、自分の隠していた気持ちがさらされたみたいな感覚。私は寅次郎みたいに正直に生きることができない種類の人間なんだろうなと思うと、少し落ち込んだ。2016/01/10
ぶんこ
61
表題作の萩子さんは55歳。子供ができず夫に先立たれた一人暮らしですが、サンドイッチを作って近所の公園にピクニックに一人で行ったり、お金に困っているわけではないのにパートでウエイトレスをしています。パート先の早蕨さんという女の子への憧憬が、イマイチ分かりませんでしたが、たった一人の暮らしも良いものだと思わせてくれました。他の作品では最後の大学マンドリン部での仲間との卒業後の交流が、適度な距離感があって良かったです。大学時代マンドリン部だった著者ご自身の思い出もあるのかな。2016/11/07
なゆ
53
4つの話のそこここに、ナオコーラさんの強い思いがあふれている。そう、無意識の固定観念を揺さぶるような。考え方はよくわかるけど、私には無理かな…と思う部分もある。でも共感してしまうところもあって、やっぱり読んでしまうのだ。この、不器用なくらい頑なな感じが、好きなのかもしれない。「越境と逸脱」が印象的。2015/12/13