内容説明
戦国の英雄たちの中で群を抜いて輝く二人の武将――天稟(てんぴん)の智将・真田幸村と、千軍万馬の勇将・後藤又兵衛。名将なるが故の葛藤と互いの深い洞察を語る〈軍師二人〉。徳川家康の女性観を描く〈嬖女(めかけ)守り〉。他、争乱の時代を生きた、戦にも、女にも強い、生き物の典型としての男たちを描く、興趣尽きない短編集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
壮の字
80
NHK大河ドラマ「真田丸」の復習、そして『城塞』を読む予習として初読。戦国を逞しく生き抜いた男と女の八編。家老クラスの猛者たちを扱った編はどれもガツンとくる読み応え。後半に向けて盛り上がる並びにアレヨアレヨと一気にいってしまった。表題作も好かったが、藤堂高虎に仕えた軍師・渡辺勘兵衛を扱った「侍大将の胸毛」がど真ん中ストライク。武闘派とはいえないタイプの大名たちが、高禄をはたいてまで名軍師を求める意味がわかる短編集でした。ま、当然、雇い主たちが統御できない力関係にもなるわな。文武両道、バランスが大事。2016/12/11
GaGa
51
司馬遼太郎の持つ皮肉さが痛烈な表題作。正直どちらも負け戦の将で軍師とはいいがたい。ただ、大名であった真田幸村よりも、一兵卒であった後藤又兵衛が正直聞く耳を持たないといけない。そういう意味では死に花咲かせてやり、かつ己の死に場所を己で決めた幸村の方が武士としてはあっぱれか。2012/08/30
Wan-Nyans
44
★★★★8篇の短編集。再読?「割って、城を」以外全く記憶になかった…。それだけ茶人大名・古田織部を主人公にした一編が衝撃的と言えるが他編も十分に秀逸。「雨おんな」「一夜官女」など男女の情愛が生々しい作品が多いのは司馬作品には珍しいかも。ただ、男でも惚れてしまうような日本史上の”漢”を描く姿勢は一貫している。大坂の陣で藤堂配下として長宗我部隊と激突する渡辺官兵衛了を描いた「侍大将の胸毛」は、長宗我部盛親を描いた長編の「戦雲の夢」と合わせて読むのがお勧め。本作にも名前の出る桑名弥次兵衛、思い出すだけで涙が…。2021/12/26
ねこ
43
8編からなる短編集。主に女性が要になる作品が多かった。時代は戦国末期、場所は関ヶ原や大阪の陣の舞台が多かった。この短編集はどれも物悲しさを感じる作品となっており、司馬遼太郎テイストの違った一面を垣間見た箇所が散見できて満足です。8編の中で「侍大将の胸毛」が私は1番好きです。最初は大葉孫六の視点で語られ、後半は孫六の御内儀、由紀の視点で渡辺官兵衛への想いが綴られています。渡辺官兵衛の名は「了」であり、渡辺の姓で名前が一字の者は大抵、渡辺の綱の子孫だとあり、彼の剛力の源はそこに起因しているのかと納得しました。2021/12/07
saga
40
表題作を最後に配した短編8作品。どれも織豊時代、名のある大名に抱えられ、戦乱の世を生きた士が登場する。時に「雨おんな」などのように女性を主にした艶っぽい話があるが、何といっても有名無名の牢人が活躍する話が良かった。大大名とは言え軍立てする侍大将が必要であったが、その力のある牢人を巧く使いこなせる大名は少なかったようだ。「軍師二人」で、豊臣家が大坂夏の陣で滅亡するのは有能な牢人の進言を受け入れられなかった豊臣嫡流の狭量さが招いたことであった。司馬史観を割引いて考えても、そのように思えてならない。2019/04/05