内容説明
「盗まれたんです。家族を」1846年の真冬。創設まもないニューヨーク市警の警官ティムは、黒人の血が混じった女性ルーシーから助けを求められる。妹と息子が悪辣な逃亡奴隷捕獲人に拉致されたのだ。ティムは兄ヴァレンタインの助けを得て彼女たちを助け出し、兄の家に匿った。だが翌々日の朝、その家で首にローブの紐が巻きついたルーシーの死体を発見してしまう。兄に嫌疑がかかることを恐れたティムは死体を移動し、犯人を追って捜査を開始する。弱者への暴力や黒人奴隷売買が横行する苛酷な時代に、青年警官はただ一人真実を求め奔走する。/解説=酒井貞道
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
NAO
51
ニューヨーク市警察創生期を描いた『ゴッサムの神々』の続編。南北戦争が近々起こりそうだと不穏な噂が囁かれている中で起きた奴隷捕獲人による黒人誘拐と、その後に起きた死亡事件。白人と結婚した黒人女性の悲劇、黒人を安全な地に逃す地下鉄道、19世紀半ばのニューヨークの混沌が描かれている中、事件に関わる姉妹と主人公兄弟の関係性もおもしろく読めた。2023/11/26
星落秋風五丈原
38
実績に乏しい警察がどれだけ有用かを世間に示していかなければならない弱い立場にある。こんな世界を生き抜けるのは「男はタフでなければ…」を地で行くような眠たい瞳の男だけだが、あいにくティムは、去った女性の手紙に一喜一憂するようなナイーヴな男性で放っておけば着ては貰えぬセーターの一枚か二枚編みそうな勢いだ。本筋のミステリに加えて、まだまだ頼りない警官の成長と、混沌としたNYという都市そのものの成長が重ね合わせて描かれる所が魅力の一つ。脇役のキャラクターも立っており、彼等との関係の変化にも興味が持てそうだ。2015/09/11
ちー
13
重い歴史が底辺にながれつつも、先を読ませる展開とキャラクターに今回は前作よりもいっきに読めた。事件の展開にからむ兄弟愛にいい味でてきた。2015/10/17
熊猫
9
歴史の重さ、共感させる主人公、読ませる物語。全てを差し置いて、キレ者でいかれてて歪んだ愛情を弟に注ぐ兄は大好物です! ヴァレンタインとジェレミーは翻訳ミステリ界の「兄」の双璧だと思うの。大好き。2015/10/06
Satoshi
8
南北戦争前のニューヨークの物語。まだ、アメリカ南部では奴隷制があり、北部では黒人を誘拐し、奴隷として売ることが横行していた。重いテーマを扱っているが、警官である主人公を中心とした人物描写が魅力的であり、ストーリーに暗さは感じない。最後まで正義を貫き通す主人公の姿は非人間的な制度がまかり通る世界の希望に見える。ただ、各章の冒頭に紹介されている黒人差別を論じた文章の引用は読んでいて辛くなる。2017/11/10