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内容説明
古来、日本人は未知のものに対する恐れを異界の物語に託してきた。酒呑童子伝説、浦嶋伝説、七夕伝説、義経の「虎の巻」など、さまざまな異界の物語を絵巻から読み解き、日本人の隠された精神生活に迫る。
※本作品は紙版の書籍から口絵または挿絵の一部が未収録となっています。あらかじめご了承ください。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
HANA
58
絵巻物の分析から異界と日本人の関係を追った一冊。鬼、狐、天狗、かつては我々のすぐ隣にいたのに今ではどこかへ行ってしまったものが懐かしく思い出される。ここで紹介されている絵巻物は『御曹司島渡』『天稚彦草紙絵巻』以外内容だけは知っていたので、分析した部分は興味深く読めた。一番面白く感じたのはあちらとこちらでの時間の変化の部分。浦島は当然だけど、狐の世界でも時間の流れは違っているんだなあ。最後の物語の復権的な部分も、失ってしまった現代人としては素直に頷ける。かつてあった豊饒な世界を思い出させてくれる本でした。2015/08/26
井月 奎(いづき けい)
45
異界とは何か、異界の意味は何か、人の存在とは何かを考えるきっかけをくれる本です。 異界とはいろいろなところに存在します。山の向こうに、海の底に、人の心に。 異界、黄泉は命のもと、心のかけら、光の粒、闇の断片がいるところです。垣間見ることはあっても定住してはいけないのです。それでもお互いは関係しあっていて、時間とともに様相は変化していきます。 あちらをどう見るかによって生き方や考え方も変わるでしょう。あちらもこちらを見ています。 異界と日本人は背中合わせでいるのです。 2020/08/07
魚京童!
27
女というふはもろもろの死人のよかりし所どもを、とりあつめて人につくりなして百日すぎなば、まことの人になりて、たましゐさだまりぬべかりけるを、くちをしく契をわすれて、をかしたるゆへに、みなとけうせにけり。いかばかりかくやしかりけん。長谷雄草紙。応天の門の長谷雄くんしかしらないから、その通りだろうなとしか思えない。それはそれでどうなんだろうね。やっぱり天狗はしょせん、狗なんだよね。狐だったころの強さがなくなってしまった。それが残念でならない。七夕の物語は2回目のチャンスがあるのに、浦島にはない。そこに何かがあ2024/07/07
イトノコ
26
キンドル合冊版。日本人と異界との関わりを、年代順に絵巻物の記録から解説。中世までは異界の住人は龍神や鬼、天狗、怨霊などパワーのある妖怪で、住処も天竺や中国から連想される絢爛豪華なものであったよう。そして人間は退治や契約により冨貴や超常的な力を得ることができていた。しかし時代が下り近世になると(本書によると神仏の影響力低下にともない対抗勢力としての)妖怪もスケールダウンし、つくも神や狐、個人的な恨みレベルの幽霊など、娯楽としての妖怪になったと。2023/12/20
テツ
20
ほんの少し前までこの国では人間が生きることが許された空間と常世との境界はとても曖昧だった。神も鬼も妖怪も足音を響かせて闊歩していた。こちらから異界へ。異界からこちらへ。そうして境界を踏み越えてしまうお話も(大抵ただでは済まないけれど)身近な戒めとして伝わっていた。そんな今はもうリアリティをもって考えることのできない日本人的な「近い異界」について、その誕生と今に至る変質について楽しく学びながら読めました。2021/06/10