内容説明
長崎の被爆にこだわりつづける芥川賞作家の、思索と創作イメージの深まりを示す2篇。
原爆で妻と子どもを喪った自由律俳句の俳人、松尾あつゆきの日記を読みながら、「被爆者の証言やエピソードを粘土のようにこねまわして物語(フィクション)をこしらえてきた」自分へのうしろめたさを意識する「わたし」。林京子さんの「自由に書いていいのですよ」という言葉から、さらなるイメージの飛翔がはじまる――。【「愛撫、不和、和解、愛撫の日々」】
戦争を経験し、原子爆弾の光景を目撃した父の病死。家族と葬儀の準備をしながら「わたし」は、言葉をもたず、その光景を語らなかった父のかわりに、「感傷に流されることなく人間のしわざを告発するなにかを書くことができないか」、模索を始める。
愛読してきた作品……フォークナーの『八月の光』や宮沢賢治の『よだかの星』、アンリ・デュナンの『ソルフェリーノの記念』やクロード・シモンの『フランドルへの道』にインスピレーションを得て文体を掴み取り、「廃墟のなかをさまよう十六歳の父の内奥にしみこんでいった被爆の実相」を書こうと試みる。
それが「しょせんは想像でしかない」、「なにもわかりもしない」、なぜなら「わたしたちはついに語り合えなかった」のだから、と自らを戒めながらも、作家は想像力の翼をひろげ、その日の長崎を描き出そうとする。【「悲しみと無のあいだ】
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
chimako
81
難解であった。「愛撫、不和、和解、愛撫の日々」は被爆して妻と3人の子どもを亡くした歌人松尾あつゆきの歌と日記を通して原爆を語らずにはいられない自身の在りかたを伝える。原爆を生き残った作家林京子の言葉がずしりと重い。表題作「悲しみと無のあいだ」は作者が父を亡くして家に連れて帰る車の中で、終わり無く思い巡らす「原爆を書く」ことに関するレポートの趣。作中作のように挟まれた作者の父にとっての原爆の話はフランスの作家クロード・シモンの文体の中に自らの表現を見つけ書かれたセンテンスの長い 惨い事実か。難しい。2017/10/31
みどり
3
父と子、時代、テキスト間のゆらぎ、その「ざわめき」を伝えるための文体で表現される原爆の実相。無ではなく悲しみを選び、戦後長崎でフィクションにしかなりえない文章をどのように表して記憶としてつないでいくか。2023/07/30
minoru
2
林京子さん、語らない父の葬送と松尾あつゆき日記、往還しながら語られていた。悲しみと無、どちらをとるか、またそのはざまにある生を見つめ続けている。読むことと書くことについても作者の意義も垣間見える。2024/04/23
gontoshi
2
亡くなった父への思いが伝わって来ます。2021/02/06
勉誠出版営業部
2
青来有一さんの『悲しみと無のあいだ』を読了。純粋な小説というよりも、エッセイに近い印象が…。2016/10/16
-
- 電子書籍
- 読書感想文をチョチョイと完成させる魔法…
-
- 電子書籍
- 主役交代 ゲームウォーズ【「ケータイ国…