内容説明
“たとえ”という名の男子に恋をした女子高生・愛。彼の恋人が同級生の美雪だということを知り、次第に接近する。火のように激しい気性を持った愛は、二人の穏やかな交際がどうしても理解できず、苛立ち、ついにはなぜか美雪の唇を奪う――。身勝手にあたりをなぎ倒し、傷つけ、そして傷ついて。芥川賞受賞作『蹴りたい背中』以来、著者が久しぶりに高校生の青春と恋愛を詩的に描いた傑作小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
こーた
263
高校生の恋愛かあ、ぼくは男子校だったし、こういうの全然わかんないんだよな、恋愛ドラマとかだとよく主人公の恋路を邪魔するライバルが出てきて、たいていは厭な女なことが多いけれど、この小説はそのライバルキャラが主人公、てところがユニークだな、などと呑気に構えてたら、中盤から二転三転、怒濤の展開に圧倒される。いやあ、驚いた。綿矢りささんの文章は、平易で読みやすいはずなのにどこか硬質で、現代的なことば遣いのなかにハッとする表現が挿まれ、じっくり読みたくてペースは上がらず、ゆるゆる進むかんじこそが心地いい読書だった。2021/05/09
さてさて
192
勢いのついた物語は、どんどんスピードを上げ疾走感のある物語へと変わっていきます。止まらない、もう誰にも止められないその圧倒的なスピードを感じる物語は、その頂点で突き抜けるように弾けて幕を下ろします。『最初は主人公を自殺させる』結末を考えたという綿矢さん。最終的に選んだ結末は、そう、圧倒的な突き抜け感のある物語でした。うっとりとするような美しい日本語の表現の数々に魅せられ、繊細な心の描写に胸を締め付けられ、そして、読者の心をどんどん昂ぶらせていく疾走感に溢れるこの作品。綿矢さん、この作品、凄いです!2020/11/09
アキ
123
2021年映画化された綿矢りさの小説。主人公の愛の迸るエネルギーが暴発する。たとえへの恋慕、美雪への偽りの愛が本気になり、たとえの父親を殴る衝動、クラスを飛び出して乗った電車で、鶴の折り紙をひらいて男の子に見せる。「ひらいて」それはたとえや美雪にかけた言葉であるが、自らをさらけだして辿り着いた言葉でもあったのだ。とてもあり得ない状況なのに、心情を表す表現が美しく、なんだか共感してしまう錯覚に陥るほど素晴らしい。ミステリーの要素があり、結末に向けての疾走感がある物語。2022/10/26
あんこ
116
放心。なんて書いていいか分からないのに、とんでもなく心を鷲掴みにされた読後感。時々置いてきぼりにされそうな部分はあったけど、久々にこんなに前のめりになって読んでしまった。わたしは、みんな好きじゃなかった。でも、愛の自我と危うさは嫌いではない。愛が求めていたものはなんなのか、青春の一言では済まされない重み。聖母のような美雪にどっぷり溺れなくてよかった。咀嚼までに時間がかかりそう。2017/01/30
hit4papa
111
人気ものの女子高生が冴えない男子に恋をした。でも、彼にはカノジョがいる模様。振り向かない男子に、恋愛感情は沸騰し、主人公をとんでもない行動に駆り立てる、というお話しです。出だしは高校生オモシロ恋愛話と思いきや、ドロドロ愛憎劇と経て、いつの間にやら哲学的というか宗教的というか、そんな方向に行ってしまいました。主人公の個性を際立たせる過激な略奪法で盛り上がるのですが、結局、無難なところへ収束したのかも。「正しい道を選ぶのが、正しい。でも正しい道しか選べなければ、なぜ生きているのか分からない」は名言です。2018/05/02