内容説明
老境にさしかかった男の、つれづれに蘇る遠い日々の記憶。うつつの中の女の面影、逝ってしまった人たちの最期のとき。過去と現在を往還しながら、老いと死の影を色濃くたたえる生のありかたを圧倒的な密度で描く、古井文学の到達点。
目次
躁がしい徒然
死者の眠りに
踏切り
春の坂道
夜明けの枕
雨の裾
虫の音寒き
冬至まで
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
そうたそ
37
★★☆☆☆ 「ゴロウデラックス」で本人が朗読されていたのを見て、気になって読んでみたのだが、これはなかなか難しい一編だった。内容があるようでない、というかそもそもその文章自体が小説でありながら、随想のようにも感じられ、また時系列もあっちへいったりこっちへいったりと、個人的にはとっつきにくいという印象が残った一作だった。とはいえ、その文章の美しさは圧巻。物語としてはどれも短いのだが、「濃いなあ……」とつくづく感じ入ってしまう。何年か経った後にでも、再びじっくりと読んでみたい作品ではある。2015/12/10
踊る猫
30
死者と生者、過去と現在の間を自由自在に行き来して古井由吉は筆を走らせ続ける。エッセイにも似た歯応えだが、この著者はやはり小説という奔放なヴィジョンや記憶を試されるところで筆が冴えるようだ。例えばゼーバルトのような書き手と古井を対置して読めばどうなるのだろう。尤も古井の筆致は確かに読みにくいところがあり、私もこの一度きりの読書で全てが分かったと語るつもりも毛頭ない。老いを私自身が生きて、古井と同じように枯れた地点で読み返せばまた違った感想が見えて来るのかもしれない。季節が循環するような構成に心が落ち着く……2020/01/11
百太
21
純文学は、ちょっと辛い。純文学を語れる力が私には無いと痛感。目線が下を向いて「ん゛~ん」と唸る感想しか出ず。。。。。2019/02/19
かんやん
19
私小説というが、たしかに一人称で語られているが、「私」という人称が使用されるのは、一度ほど。心境小説というが、誰の心境なのか。「おのれをこの世の一個と限るよりは前世を思うほうが、すくなくとも人間智としては、よほど深いのかもしれない」のならば。(この国の人間は古来、世の実相を)「自分一個が生きながらえようと果てようと変わりなく、季節のめぐりにもひとしい、とみている」ともある。枯葉が夕日に照り返す、風にそよぐ、雲がうつろい雨が降りだすとき、それを見ているのは、誰なのか。いつ、どこでのことか。生と死の境が緩む。2017/06/19
Yuko
15
<病床の母に付き添う男。従う女。死を前に、男と女を結ぶ因果の果て。情愛の芯から匂いたつ官能。表現は極北へ。全8編を収録。> 2015年 装幀が菊地信義さんとのことで手に取った。著者初読。徒然なるままに・・梅雨、蝉の声、蟋蟀、金沢の夜、匂い・・淡々とした著者の言葉の海に身を委ねると、視界も思考も朦朧として霧か靄がかかったような世界を揺蕩う。だれが話しているのか?だれが感じているのか?下り坂の我が身の行く末を想像し不思議な一体感を味わった。 装幀の色とデザインは、まさに!といった趣。雨の日を待って投稿。 2020/09/22